コンテナガレージ

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お手を拝借、今日はどちらに赴きましょうか?6-5

 終電に間に合わせる急ぎ足の乗客、地下に降りず、地上を北に走る傘を抱えた疾走、ゆったりとまどろんだ相合傘の男女、打ちひしがれた傘を持たないずぶ濡れの誰か、駅前通りに一歩出ただけでこれほどのバリエーション。

 店主は鈴木に時々顔を向け、早口で応える。おそらく聞き返されたり、詳細を尋ねたりされることを嫌ってのことだろう。この人物も無口、寡黙な人種と種田は断定をしていた。階段を下りて地下へ。地下の床も濡れた場所が光の加減と物理的な質量で目に入った。改札はすぐそこだ。こまか質問から大まかな括りへ鈴木は問い方を変えた。できる限り店主に喋らそうという魂胆らしい。改札を抜ける。人が足早に、三人を追い越す。終電の発車時刻までは余裕は残されている、正確な時間がわからないのか、はたまたたった数分の待機を惜しんで駆け出したのか、電車を一本逃すのとはレベルが違う。つまり、分単位の時間間隔が走った者たちの標準ということか……。

 降車専用、手すりで区切った壁との間を降りる。ちょうど二人が肩を寄せ合う幅だ、種田は二人の背中、頭部を視界に収め、濡れた階段を慎重に下る。吐き出された乗客たちがこぞって遡上を始めた。間に合わないはずだ。種田は次の車両までの待ち時間を得たように思った。その矢先。店主は軽やかに、最後の階段を飛ばしたかと思うと、飛び跳ねるよう、ホームと改札を目指す流れの隙間を潜り抜けて、車両に乗り込んでしまった。鈴木も駆け出してはいたが、足を止めた判断は正しい。諦めではない、無駄な労力を使わずに温存に切り替えた適正な判断なのだ。