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お手を拝借、今日はどちらに赴きましょうか?6-2

 ある人物と似通った性格と思考回路だったの種田はよく覚えている。あたりに散らばる冷厳な雰囲気や言葉数の少なさも類似点の一つだ。自分が言うのもなんであるが、端的に物事を言ってのける能力を持つ者は、いくらでも枝葉をつけられる。ようは、的確な観測がなされている、種田の持論だ。

 鈴木は持ち前の明るさを前面に、事情を話す。「実は、先週の金曜について、いくつか知りたいことがあります」

「私にでしょうか?」

「噂を聞いてませんか。飛行船の」

「飛行船?」

「金曜の夜、午後九時ごろにS市上空を一機の飛行船が遊覧しているのが、目撃されたのです」

「仕事をしてましたので、外の様子は見られません。飛行船と私になにか関連が?」

「ブルー・ウィステリアの屋上で殴打された死体が発見されました、その飛行船が飛ぶ金曜の午後九時が死亡推定時刻です」大胆に種田の声は鈴木の慎重な探りをあっさりと越えてしまう。鈴木は顔を向けて、口をパクパク動かす。文句を言っているようだ。

「んんーと、ですから、それらの事件と出来事が僕となにか関係するのか、と尋ねています」店主はもう一度、聞き返す。明らかにこちらの意図を汲み取った上での、再返答。

 カウンターまで種田は歩み寄った。カウンターのスツールは天板の真下に格納された状態、軽く黒ずんだ板、木目を撫でる。「不本意でありますことを、私が心得ている心境をあなたには知っていただきたい。事件の目撃者を私たちは探している、管轄外の刑事が事件の捜査を担当する不信感は警察サイドの事情というものを考慮して、どうか当日や事件翌日のお客の会話を拾ったのであれば、教えてくれないでしょうか」