コンテナガレージ

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お手を拝借、今日はどちらに赴きましょうか?7-2

 喫茶店のカウンター、入り口から最も遠い奥の席に種田と鈴木は座る。コーヒーを注文したばかりで、テーブルには水の入った氷が浮かぶグラスと鈴木の前には陶器の灰皿が並ぶ。彼は煙草とライターを取り出すも、車内で一本消費していたので、躊躇っているのだろう。

 ここはO市とS市の境目、Z地区の海岸沿い、石造りの建物が特徴的な店である。昨夜、飲食店の店主への訪問を最後に仕事を切り上げた。そして今日を迎えた早朝に一度O署に書類の提出のため車に乗るつもりが、エンジンの不具合によって、急遽鈴木に送迎を頼んだ種田だった。疲れていたのか、通常よりも遅く目が覚め、電車では出勤時刻には間に合いそうもなかったのだ。鈴木に不要な回り道をさせた、彼の住まいは種田の住まいとO署の間に位置するのだ。鈴木は高速に乗り、私をピックアップ、何とか出勤時間内に署についた。目的を果たし、S市現場に向う前に朝の出迎えのハンデを鈴木は行使したのか、休憩がてら喫茶店によると言い出して何度か訪れたことのあるこの喫茶店に座る、という現在の状況である。

 カウンター内で働く女性店員の日井田美弥都が鈴木の目当てでもあった。目の保養とはよくいったもので、ことあるごとに彼女の手技を眺めてる。もっともそれは鈴木だけならばまだしも、カウンターに席を確保したほかのお客たちも同様に、店員の手元に意識を集約させているのだから、呆れてものもいえない、という言葉にぴったりの場面に出会えたと、種田は内部の煮え返る感情をごまかした。この女に関わると理由を飛び越える理性の脱落が顕著となってしまう。