コンテナガレージ

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お手を拝借、今日はどちらに赴きましょうか?8-2

 彼女ならば、と店主の確証は割合で言えば、五割以下だろう。見守る、成長を促す、チャンスを与える、どれも店主の考えには当てはまらない。すべてはお客に還る。それこそが店の存在理由、と店主は考える。彼女たちが僕の仕事の意味を理解し、体現、料理を作り、提供し、お客に与え、お客は次に足を運ぶ流れを生むことが店の理想だ。

 小川が店をバタバタ出入り、蒸し器に次の一団を送り込むと、出来上がった料理を持って店外に運ぶ。レジは外に作っていた。肌寒さを出来上がりの湯気でお客の待機時間を紛らわす作戦を取ったのだ。到着時刻どおりに姿を見せるバスよりも、次の駅を出た地下鉄のアナウンスの方が苛立ちと焦りを取り去ってくれる。

 そうこうして、慌しいランチタイムが過ぎ去った。しっとり額に汗を掻いていた。

 館山を休憩に入れる。店主の呼びかけに使用済みの油を漉す彼女は、いぶかしげにこちらを見つめ返した。なにか不都合なことを言っただろうか、店主は瞳を一応、礼儀として受け止める。厨房をあくせく出入りする小川は、表のテーブルを国見蘭と店内に運び入れていた。

「期限はいつまででしたか?」館山が濾紙に落ちきる油を待って、言い放つ。移転のことを言ってるようだ。そっけなく店主は応えた。

「今週末」

 館山は腰に当てた手を解放、重力と肩関節に任せる。「やっぱり店の移転はお客さんのためであっても、納得できない」

「それが館山さんの答え?」最終的な結論は彼女たちの意見を取り入れた上で僕が決める、と伝えてある。また、正式な返答までの期間内であれば、賛成・反対の変更は受け付けていた。