コンテナガレージ

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今日からよろしくどうぞ、不束者ですが1-4

 小川が言うコーヒースタンド<テイクアウト>は今月営業を始めた文字通り、コーヒーのスタンド販売店である。ピザ釜に張り付く作業を妨げ、視界にちらちら入る。店は通りの斜向かいに位置し、改装作業がたった数日で完遂してしまう光景は記憶に新しい。クリーニング店を改装した店舗は外観の色が薄い水色から暗い青に変わった程度で、ストライプが眩しい、水色と白の庇は汚れを取り除いたぐらいだろう。真新しさをあえて嫌った店のコンセプトであると、店主は思った。

 一時間後にタイムカードを忘れずに押すように、念を押して二人に作業を指示仕込みに取り掛かる。

 厨房の作業員二人はそれぞれの担当の作業にこなす。

 だが、テイクアウトの出入りが気になるようだった。特に小川はそわそわと首を外に向ける。わざとまな板をもって窓際のスペースでチキンライス用のたまねぎを切るのだから、しょうがない。

「小川さん」店主は熱を込めて言った。「作業に集中してもらわないと困るよ。これをすべて、君が食べるのかい?」

「あっ、はい、すいません。ついうっかり、へへへ」ふらりと包丁を持った右手が後頭部に引きあがる。

「こらっ。包丁置いて!」隣の釜で内部の温度を測る冷然な館山は小川の指導係。頼んだつもりはなくとも、自然と館山が指導を積極的に行ってくれた。

「わっとっ。野菜は切っても、指は切りませんから、ご安心を」

「よくそれで、ランチを作りたいっていえたもんだよ。呆れてものも言えない」

「それはさっき謝ったじゃないですか、言葉が過ぎたって」

「そうだった。忘れやすいのよ、私」

「都合よく、忘れますね。一時間早い出勤時間はいつもきっちり覚えている、何か特別な理由でもあるんでしょうかねえ」小川の口元は溶岩が広がるよう滑らかな対流をみせた。

「二人とも、いいかげんに」

「はい」返事はいつも揃う、おかしいぐらいに。

 解凍した鶏肉、固い筋をナイフで取り除く。店主はピーマンを刻む、温度の確認から持ち場に戻った館山の隣で作業を進める。館山が決めたランチのメニューはチキンライスだった、店主はあえて彼女にメニューの発案を任せた、自身も幾つか候補となるメニューを考えていたが、積極的に取り組む姿勢と、料理は常に普遍的なメニューでありながら、お客が体から欲するメニュー、という理念に適合した。そのため、あっさりと彼女に託す。