コンテナガレージ

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お手を拝借、今日はどちらに赴きましょうか?8-5

「ないとは言い切れないね」

「そうですか、それはそれは」次の仕事を彼女は探す。「先輩、先輩って」

「……なに?」

「休憩ですよ。それ私が代わります」

「うん、そうね。もう休憩の時間か、あっという間だ、びっくり。じゃあ、お先に休憩いただきます」

「店長、気に触ることでも言ったんじゃないんですか?」厨房を出る館山を見送って、小川がこっそりと僕に真相を確かめた。

「意見の変更は受け付ける、これはいったかな」

「店を離れる、これは結構堪えますよ、店長とは違うんですから」しんみりと小川が呟いた。国見の位置に彼女は陣取る。ステンレスの壁面を物悲し気に見つめる小ぶりな瞳、片目がみえた。

 引き続き店が明日も存在を許されている、と彼女たちは思うんだろう。

 僕は今日の期限はもちろん、今日。明日はやってこない、と考える。彼女たちとは違う。明日は今日を引き継ぐのではない、一旦忘れて、思い出すのだ、昨日を。そうして、続ける。引き継ぐのさ、昨日を。だけど、明日に渡すつもりはまったくないんだ。今日は今日で終わる。よって、今日を使い切る。明日のために休養を取れ、というのはまさに彼女たちの日常把握がそうさせる、といってもいい。僕のような取り組みができれば、休憩時間は自然と仕事のなかに発生する。動きながら、休める。いかに効率よく、限界まで遣いきれるかが重要なんだ。

 明日のメニューを置いてけぼりにしていた、片隅を探って考えを表に。

 使用済みの油は酸化が進むため今日一杯の使用期限とし、余ったものはそれ以降の使用は禁止。小川は熱を持った瓶詰めの油を調理台に載せて、明日のランチの仕込みを僕にねだった、応えの代わりに質問を投げかけた。

「特別豪勢な食事を明日、世界が滅びる事実を知らないとして、小川さんは昼食に何を願う?」

「決まってますよう」彼女は言う。「いつもの同じ、だけど昨日とは違う昨日みたいな普段の食事です。給料日前ならなおさら、なじみのいつもの目をつけたお店に向います」