コンテナガレージ

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お手を拝借、今日はどちらに赴きましょうか?5-5

「偶数で多数決を取ると奇数よりも選択が鈍化してしまう確率が高い。小川さんは勘違いしてるようだけれど、僕は多数決で決めるつもりはない」

「ええっつと、しかしですよ、私たちに意見を求めたのですから、店長の最終決定に反映されることに違いはないように捉えますよ、私小川は」

「そう思ってもらって構わないよ。だって、まだ小川さんの意見しか聞いていない」

 もう一人の厨房の従業員である館山は通路の先、ちょうど厨房の食洗器が張り付く壁の真裏にある備蓄倉庫にいた。明日のランチのメニューを考え、使えそうな食材を物色しに厨房を離れている。店主が扱うサツマイモは明日以降の提供でも構わない、まだ明日までには時間の猶予はある。ランチのメニューは前日に決まるほうが珍しいといえる。館山にランチを任せる以上は、それなりのバックアップ体制、つまり提供品が一定レベルを越えなかった場合を考慮に上げ、即座に対応が可能な明日の気温とお客の体調に寄り添う代替品を創出する構えで、つまり一つの店で二品を考案する、という状況に現在はある。出入りの業者は大変そうだと同情し、常連客はいつもよく考え付く、とたまにカウンター越しに私に返答を気にせず独り言のように呟くのだ。

 そうだろうか。無駄にはなっていないと思う。日の目を見ないメニューは似た気候と日取りの別日に思い出すのだし、似たような明日の雰囲気であったら、細部に目を凝らす昨日と違いを見出すだけのことだ。あらかた考えつくした余裕がそこで生まれる。

 塩水につけたサツマイモを手に取る。塩水の効果を確かめるためだ。前々から言われていたサツマイモを扱う下処理の過程を僕は一から見直すのだった。こういった取り組みからメニューが作られることが大半なのだ。特性の見落としがこれで払拭し、見つめる観察の機会の少なさがメニューを思いつきを減らす、と僕は感じている。あくまでも個人の感想だ。それにここは、大衆的な食事処。高級な食材を扱う店ではまったくないのだから、身近な食材のアプローチの仕方に工夫を凝らすことが求められる。