コンテナガレージ

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不躾だった私を、どうか許してくださいませ1-6

 ベンチに戻ろうか迷った。帰路の数歩はそのまま散歩に移り変わった。腹ごなしの散歩といえる。それほどの私にしては食事の量が多かったのだ。

 川を目指すことに決めた。東に流れてるらしい、こっちへ移り住んだ初日にS駅で手に入れた周辺の地図を男は思い出した。交通量の多い、人通り。二ブロック先に行き着くと、四斜線の通りの二つ、上りと下りの計八車線に挟まれた川を発見した。北は駅に向う方角、南を歩くか、男は川の土手を南に下る。

 あの女、というのはかなり風変わりな要請をロビーの席で手短な用件でという私の制限に、的確に反応を示し、まるで予想していたかのごとく端的で驚きに満ちた、滑稽なプランを述べた。私はつい、笑った。珍しいことがあるものだ、私の態度に通りかかる同僚たち会話を中断させるほどで、そう、女の言葉は耳を疑う内容であった。

 開発のプロモーションを私に求めたのである。もちろん、断った。あたりまえだ。開発者が雄弁な商品開発過程の説明を詰め掛けるマスコミに訴えるまるで、演説を思わせる力の、想いの心の篭った胸に響く言葉が言えるものか。だが、私の考えていた想像は女の口からは表れない。彼女は新商品の販売日の一日、厳密には発表の現地時間と翌日の日本第一号店の販売・営業開始時間まで、飛行船を飛ばしてくれないか、という突飛な提案だった。しかも彼女はこちらの反論を遮って続けた。飛行機のライセンスを所有するのであるから、飛行船もそれほど一からみっちり時間をかけた労力を注ぎ込まないであなたはライセンス証を私に見せ付けられる、と眉を上げて言い切ったのだった。セスナの免許は持っている、飛行船の仕組みも思いついただけでもそれほど専門的、そして肉体的な反応を必要とする高い技術は無用に思えた、動きはゆったりとしているし、離着陸や飛行区域も限られてるだろう、予測は瞬時に立った。 

 だけれど意図がわかりかねた。何を目的に私を誘い出したのかが、まったく検討もつかない。