コンテナガレージ

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不躾だった私を、どうか許してくださいませ1-5

 手が空いた、箸に持ち替える、サツマイモのてんぷらを口へ。外側の衣の触感と皮をつけたままのサツマイモが絶妙に舌に届く。少々の塩味、男は裏側を確認、手首を四十五度回転させた。表面が味の決め手、過度な味付けを嫌ったのだろう、男はしきりに関心、頭を上下に揺らす。

 そうそう、社内がファーストコンタクトであった。考えてみれば、あの女は会社との何らかのつながりを持つ提携や協力関係の企業に借りの所属の席をおく、ということだろうな。厳重で強固なセキュリティを通過しなくては、私がたまたま顔を出すロビーに足を踏み入られない。これが通常の想定である。

 そうえいば、彼女が声をかけた初対面の印象はこの間とはまるで別人を思わせるおっとりとして控えめな声がけと微笑だった。このような容姿にあたりをつけて日本語で話しかけてしまう行為は、こちらの存在に確証を抱いていた、という見識が妥当である。

 男はベンチに背を預ける。隣のベンチに肉まんを頬張るカップルが座った。地図を広げ、観光地を巡る計画を練っている、微笑ましいではないか。害を与えていないと、思っているのだから、許してあげるべきだ。

 パスタを二口、そこへ駆け込むみたいにコーヒーを流し込む、満腹。

 冷めてしまったコーヒー。短時間の魅力に数百円を支払う計算は、割に合うのだろうか、と男はふと考えを巡らす。しかし、あの女のことがまた思考を遮った。

 席を立って、ベンチとベンチの間の金属製でかつては白と呼ばれていたゴミ箱にしっかり袋を両端を縛り、渡すように捨てた。隣のカップル、男がこちらを気にかける。自分たちだけのテリトリーに入ってきた異物を追い出そうというパートナーを守る心理の働きだ。とても崇高で、とてもあいまい。出し入れできるのならば、何故襲われるまで鞘に刀をしまっておかないのだろう。見せ付けたいのかもしれない。