一度ランチを離れるか。念のために、吸殻を集めた缶を持って店主はテーブルに着いた。
一同の表情は一貫して、くすんだ色だった。
「終電に間に合うつもりで回答を聞こうと思う。また、」店主はそこで言葉を切った。「君たちの意見を取り入れるつもりであるけれど、最終的な決断は僕に任せて欲しい」
「横暴です」左手の館山がテーブルに手をつく、中腰、背が高い彼女のすらりとした体の曲線、最上部の頭にはぽっかりと浮かび上がった月を思わせる壁の船底時計が時を刻む。時刻は十一時と数分を過ぎる。
「仮にも僕の店だから、その権限は渡していないつもりだ。君たちを軽視しているつもりも、同時にないとは言っておくよ。誤解を招かないようにね」
「それにしてもですよ、店長は受け入れるのがすんなりというか、あっさりしすぎてやしません?」正面の小川が言う。彼女は、この季節にはちょうどいい適度に風を招き入れるミリタリーコートを着用、肩にかけたメッセンジャーバッグの肩当、それにショルダーベルトがぴったりと体の前面を斜めに横断。「店の移転は売り上げの減少に直結しまうよぅ」
「覚悟の上さ」
「私からも言わせてください」円卓の右隣で国見が鋭い視線を向けた。声は低めに抑えて話す。館山が座ったようだ、円卓の支柱と靴が出会った感動の再開を祝す音声が聞こえた。「店長は、当初から移転を受けいれてる、私にはそのように映りましたが、なにか対策、売り上げ、お客を数週間、距離を置いて、また引き戻す具体的な予測が立っているのでしょうか?これを聞かないと、私は帰りませんから」
怒り、自らの店ではないが、関わりは深く多大で、店の経営、主な接客から店の帳簿までを彼女はこなす。発言権と僕の見解を聞く権利というものが、存在するのであれば、十二分な権利者、発言者である。ただ……、そう、ただ……。