思い出した仕草、小川はわざとらしく拍子を打つ。「あの、新しいビルのついでに、ブルー・ウィステリアの行列を見てきましたよ。ずらっと、移転先の工事現場場を越えてまだ続いてました」
「端末の機能は大して変わらないのに、何で食いついたのかしら」国見も小川の発言に寄り添う。
「無駄話はよそでやってよ」
「うーん、だって先輩、店長の言い分に勝てると思います。これこそまさにお手上げ状態ですよ」
「お手上げは既に状態なんだから、言葉を二重に重ねるな」
「二重も既に重なってます」
「なんかいったか?」
「いえ、べつに。そうそう、ビジネスマンのお父さんとか、電話しか使わない高齢者に人気が高くって、だって時計みたいにつけておけばいいし、バッテリィだって、ソーラーで充電するので、充電が切れる心配はほとんどないようですよ」
「意外と世間の流行りに詳しいのね」興味なさ気に国見が言う。彼女は、移転について諦めがついた態度に落ち着いた、と店主は捉える。
「まだまだ十代の若さを保っていますからね」
「あと数日の命」
「もうっ!それを言わないでください」
三人の音声のみを抽出、ぼんやりと想像が膨らんだ。
彼女たちの配置がおぼろげな新店舗の図面に浮かび上がる。
適切な距離感、お客と共同の透明なアクリル板、隔てる視界、列を成すお客、対面、側面の他店。