コンテナガレージ

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不躾だった私を、どうか許してくださいませ2-8

 思い出した仕草、小川はわざとらしく拍子を打つ。「あの、新しいビルのついでに、ブルー・ウィステリアの行列を見てきましたよ。ずらっと、移転先の工事現場場を越えてまだ続いてました」

「端末の機能は大して変わらないのに、何で食いついたのかしら」国見も小川の発言に寄り添う。

「無駄話はよそでやってよ」

「うーん、だって先輩、店長の言い分に勝てると思います。これこそまさにお手上げ状態ですよ」

「お手上げは既に状態なんだから、言葉を二重に重ねるな」

「二重も既に重なってます」

「なんかいったか?」

「いえ、べつに。そうそう、ビジネスマンのお父さんとか、電話しか使わない高齢者に人気が高くって、だって時計みたいにつけておけばいいし、バッテリィだって、ソーラーで充電するので、充電が切れる心配はほとんどないようですよ」

「意外と世間の流行りに詳しいのね」興味なさ気に国見が言う。彼女は、移転について諦めがついた態度に落ち着いた、と店主は捉える。

「まだまだ十代の若さを保っていますからね」

「あと数日の命」

「もうっ!それを言わないでください」

 三人の音声のみを抽出、ぼんやりと想像が膨らんだ。

 彼女たちの配置がおぼろげな新店舗の図面に浮かび上がる。

 適切な距離感、お客と共同の透明なアクリル板、隔てる視界、列を成すお客、対面、側面の他店。