コンテナガレージ

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不躾だった私を、どうか許してくださいませ3-1

 土曜日、支店長の失踪から約一週間が過ぎた。今日もお客はひっきりなしに店に押し寄せる、なんとも欲にまみれたことか、口が裂けてもいえない。仕事に支障をきたしてしまう。もしかすると、予想だけれど、支店長が姿を消したのは、会社の内部事情を他所に打ち明けようとしたから……考えすぎだ、稗田真紀子は上着を羽織り、喫茶店の席に着いた。今日は、一階の奥の席を選んだ。いつもは埋まる人気の席が今日は偶然にも空いていたらしい。

 一つ噂を耳にした。頬杖をついていぶかしげ、壁にかかる滝の絵画に視線を留めた。数週間に壁にかかる絵が換わる、この喫茶店の特徴だ。外観や店員の制服はチェーン店と見間違えてしまうが、サービスやコーヒーの味はグレードがはるかに高く、それゆえ常連客が多い。よって、それらにあこがれる若者たちの嬌声がたまに室音に混じって聞こえるんだ。真後ろの席で、女の話に興じる青年たちの会話が時々神経に突き刺さるけれど、それもまた一興と心構えをゆゆったり保つ年齢に私も差し掛かった、と自己の評価を鑑定してみた。時間までの暇つぶし。