「ありえたのよ、実際。今更振り返って驚きを再確認しても無意味」
ウエイトレスの代わりにウエイターが真下の軽食とコーヒーを運んだ。彼は微笑みかける、ちやほやされたうわべの優しさと気遣いだった。当然、真下の反応は鈍い。ありがとう、と一言感謝の言葉を返しても、帰っていく彼の背中に力が篭り、誤った受け取りを物語る。
軽食はサンドイッチ?まさか、ホットドック?見当違い、何を隠そう格子状に切れ目が入る二枚のフレンチトーストである。まるで人体の切開を思わせるナイフとフォークを握った彼女に、私は続きを尋ねた。
「あの日、飛行船を見た、飛んでた、でしょうかなり低い位置で」
「何かの宣伝のようだったわね、それがなに?」上目遣い、口に入れる。一口サイズに切り分けたトーストが吸い込まれた。
「停電になったのを私も知ってるの、その場所いたから」
「帰ったんじゃないの?」そう、先に店を出たのは私だ。
「帰ったけど、旦那のプレゼントにブルー・ウィステリアの端末をどうかと思って、列に並んでたの。ほら、うちの会社だと通話とデータ通信がセットのプランしかおいてないから、同業者の通話のみのプランの契約に変更を提案しよう、思いついたの。それにさ、デザインもスーツや普段の服装にも合いそうだから……」
「あなたが見た人が私だって言える?証明できる?」あの場にいた事実を認めた。
「隠してることがあるのなら、正直に言うべきだって、思うの」
互いの声が高まる。