一昨日吹き荒れた屋外の天井だったが、本日の気分はよろしいらしい。
男は腰に回した手を組んで、長靴のつま先を前に送り出す。
ぬかるみ、水溜り、浸水する雑草。
朝日に反射する地上の面々には恵みの雨、方や傘を差し雨を凌いだ地面から一メートルや二メートルを生活範囲とする生物にはやっと過ぎ去った邪魔な出来事。
昨夜を思い出す。
夜に降り続いた雨が止み、月が出ていた。久しぶりの眺め。することがないのだ、テレビも飽きてしまったし、調べるべき情報とやらも、動機を探し出す重い腰を上げる気力は失われたらしい。自分のことなのに、いいや、自分のことだから、忘れられるともいえる。
打ち明けるべきだろうか、一晩、肌寒いテラスで空を餌に考えを巡らせた。寝袋に包まる姿だったし、移り住んだ海岸沿いの一軒家はぽつんと寂しく建つので、人の目を気にする必要はない、存分に自由に振舞える。
安心感を握り締めて、眠りに落ちる。
目覚めたのは夜が明けて数十分ほど、しかし寒さで起きたのではなかった。車のヘッドライトが目覚まし代わりに、瞼を照らしたんだ。彼女が尋ねてきた、そう飛行船の同乗者である。
全身が黒、胸元には先住民俗のレリーフ模様が施された刺繍が目を引いた。足元はかろうじて踵の低い靴、パンプスというのだろうか、歩きやすそうではあった。
私が横になる寝そべった椅子はちょうどテラス、家の側面にある。玄関と地続きでこちらのテラスに行き来は自由で、一階がガレージで、階段を上った先が一階の出入り口だ。テラスからも下へは降りられる、彼女はライトの明かりをバックに姿をみせた。
「こんばんは、それともおはようかしら?」
「……住所を教えたつもりはない。一夜を共にするには少し時間を間違えてる」私はあくびをかみ殺して、何とか答えた。ぼんやりと頭の働きは鈍い。
「警察と会ったようね、きちんと私のことを隠してくれたって聞いた。ありがとう、感謝します」