コンテナガレージ

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ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって2-2

 あまり外へは出歩かない。いや、正確には大勢の人がひしめく場所を避けて、外出をする彼女だ。車移動は、私が働く喫茶店では主流である。ところが、美弥都は車の免許は持っていない、移動はもっぱら徒歩か電車である。不便ではないのか、店主には何度か聞かれていたが、緊急時における選択性の多さ、といつも答えを返す。

 美弥都は川に突き当たってから南に進路を取った。より人が少ない通りを選んだ。潤沢に水がうねる。自動車の音も水を真似て一定のノイズであるならば、気にはならないだろう。エンジン音を一定に奏でる装置、というものが開発されてもいいように思う美弥都である。

 二ブロック半を歩いて、前方に不穏な動きが見られた。なんだろうか、美弥都は首を伸ばして、遠方を注視する。そういえば、南に下る通りは北上する車の台数が異様に少なく感じた、現にたった今から台数をカウントしても、二、三、四台。彼女は上下道を川で挟む、一方通行の北上側を歩く。

 南に下る方は右折レーンが交差点で滞っている、道は勾配になっていて、橋の付近は盛り上がっているため、その先の様子は視界に収まらない。歩道の通行は可能なようだ、美弥都はスイッチを切り替え、緩めた歩調を元に戻した。

 問題の交差点に辿り着く。左右を見渡した。右手に渋滞の箇所が見受けられた、左はスムーズどころか一台の車両も通らない。ここは橋の上の交差点である、前方にもう一つ橋が見える、そちらはくだりの傾斜が続き、一ブロック手前でもよく見えた。美弥都はきっちり青に変わった信号を渡る。