コンテナガレージ

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今日からよろしくどうぞ、不束者ですが2-5

 また、真下を置いてけぼりで、考え事に耽ってしまった。彼女に話してもらおうっと、稗田は上司の生死を尋ねた。その間に、サンドイッチを食べ終えるつもり。

「気力を振り絞って支店に顔を出すのはマイナスと捉えたのかも。または、起き上がれないほど緊急性や重度の怪我や病気、個人的な事情という可能性もあるわ。究極は報道で伝えられた人物が、支店長」

 稗田真紀子はむせた。

「ううっふ、あっはん。そこまで、はっきり言われると、ううん、反論したくなっちゃう」

「今日の誘いは、支店長の行方についてが、議題?」真下はストローの封を切る。空調が軽さを得た紙の袋、筒状の穴から空気を取り込んで、ひとりでに移動する。

「誰にも言わないっていう、秘密を守る約束を交わすけれど、いい?」真下眞子に秘密を打ち明けるときの合言葉、同意を得る文言に、約束の度に強固な錠前をつけるみたいに、意思を刷り込む。

 彼女はしかし、端的に応える。

「店の中で業務以外に話す相手はあなたしかしないもの」

 いつだって真下は正直だ、疑いを強めて、斜めに見つめてしまうのは、やっぱり私……。体内で頭を下げる。息を吐いて、稗田は切り替えた。

「あのね」体を乗り出した、口元を手で覆い隠す。

 二言、三言。浮かせた腰を革のシートに下ろした。

「……私にしか言えないし、聞けない話ね、支店長を除いては」

「それでどうなの、答えを聞かせて、くれる?」私は訊いた。

「答える、とまでは約束をしてはいない」

「ずるい」やられた。しかし、これで引き下がっては、約束が無駄に終わる。肺を膨らませて、言葉を吐こうとしたら真下に言われた。

「時間は大丈夫かしら?」斜めに傾く真下の顔、瞳と口がRを合わせたカーブを描く。

「おうっと、まずい。私たちが遅れたら示しがつかない。出るわよ」

 二人は席を立つ。

「雨ね」伝票を持った稗田が頭上に傾く天井の階段で呟いた。雫の滴る傘を持ったお客とすれ違う。

「私が会計を済ませるわ、あなたは先に戻っていて」真下は込み合った二階のレジに並んで言う。彼女の片手は、伝票をひったくるように私の手から奪った。事実上支店長である二人のベテランが、支店長不在の今日は休憩時間に遅れると従業員への示しがつかなくなる。食事代をきっちり、真下に手渡して、稗田真紀子は濡れた床に気を使いながら、自動ドアを潜った。