コンテナガレージ

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抑え方と取られ方1-7

「却下します」

「……」

「おっはよううございますです」小川安佐が陽気に引いたドアで仰け反る。「わあお、人だ。うん、ああ刑事さん、朝からまた、どうしたんで……」ドン、逸れた種田の視線が男に向き直る間に、入り口の小川に体当たり、男は逃走を図った。

「痛いなあ、もう。大事な手首を折ったらどうしてくれんのよ!」小川は種田に手を引かれ立ち上がったようだ、店主からは死角、ドアの外枠に小川のコートがちらりと見えていた。

「逃げられた」種田は独り言をつぶやく。振り返り、店主に報告する。「彼女は送り届けましたので」そういって種田のコートがひらめくと、開け放たれたドアを抜け、小走りで男を追いかけた。

「あれこそまさに刑事」

「何かあったの?」フライトジャケットを着た館山が出勤してきた。これで従業員が開店時間の約二時間前に集合したことになる。

「ええっとですねえ、あん?」小川は首をかしげる。「今出て行った人は一体誰ですかね?」

「警察でしょう。殺人事件のときに捜査で店に乗り込んできた」館山はマフラーを取る。こちらに挨拶をしてから、小川に言う。

「も少し前に男の人が私を突き飛ばして、店を大慌てで出て行ったんですよ」

「ということは、そいつが脅迫の犯人?」

「そうなんですか、蘭さん?」小川は、質問に関する情報の回答を即座に小川に手渡した。小川は無知を公表する癖がある、知らないのだから、という諦めもそこには含まれているのだろう。

「私も来たばかりで、何があったんです店長?」視線が一斉にこちらの的に標準をあわせてきた。店主は男の登場を簡潔に説明する。

「ふうん。脅迫っていうよりも、強制ですね。料理を作るなっていう否定の要求は一般的ですけど、これをしてくださいって、結構めずらしい。気に入ったうちの料理を食べたい、それもライス付きで。わからなくもないけど、お米を無料であげるのは、もうお金を出して店で買う意味はありませんよね」

 カウンターに座る小川に立ち姿の館山が言う。「あくまでも作るのは私たち、支払って料理を食べる、どこがいけない?」

「いけないなんていってません。食べたい料理のためにお店に足を運ぶ楽しみに、もしかしたら行列が長すぎて食べられないかもっていう、不安も行列ができるうちなんかの店に行くときには思うんですよ。つまり、店の側に立った時点で、興味は冷めてしまいます。あくまでも、うーんとなんていうんでしょうか、浸っていたいんですよ」