コンテナガレージ

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ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって6-5

「こっそり僕にだけ、教えてくれる、店長さんの譲歩なんて計らいは、はい、ありませんよね」鈴木は額を掴むようにこめかみを挟んだ。「かなり大胆な行動だったんですよう、現場の踏み込みだって……。背に腹は変えられないかあ、何とか希望を繋ぎましょう、上司の許可を取ります」鈴木は深く頷くと端末を耳に当てた。

 僕はその場を離れる。彼の要求は満たした、現場を再度確認して見解も述べた。店に帰る権利を掲げる、立ち去る姿が何よりの主張となる。いちいち、許可の申請に待機を命じられるなど、役所で十分だ。

「どうもお手数掛けました。また、窺うかもしれません」端末のスピーカーを押さえた鈴木は呼び止めなかった、誘った後ろめたさが、次回の訪問をそれとなく匂わせる程度に収めたらしい。

「結構です」駐車場に踏み入れて、私は答えた。エンジンを後方に積んだ外国車の脇を通る。室内は狭いように見えて、これが意外と定員が乗れてしまえる、見た目と内実は視覚的な錯覚がその差をもたらすんだろう。サイドミラーがゴルフクラブのシャフトみたいだった。

「それは、どちらの意味ですか?」鈴木がきいた。

「食べたくもない料理を感謝のついでに顔を出してまで、食べなくて結構です」

「そういうわけ……、あっ、もしもし、鈴木です。お疲れ様です、はい」

 夕暮れが迫る午後四時半。左手に抜ける小道、電線と交わった淡いピンクが空の色を支配。

 拡散しなかった、残った赤だ。

 大気が汚染されたので見えた綺麗な赤だ。

 カメラを空に向ける人がいた。月が早々と空にスタンバイ。明日のランチは何を作ろうか、店主はとぼとぼ、流れに飲まれ店に帰った。