コンテナガレージ

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ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって7-1

 S駅に向うタクシーを捕まえて、乗車。

 北海道飛行船協会の事務所を運転手に告げるが、伝わらない。

 ドライバーはかなりの高齢だった。ナビに打ち込む住所を教えた。

 前かがみの体勢を動き出しに安堵を勝ち取り、やっとシートに背をつける。レースのカバーは数十年の歴史を感じる。

 渋滞の箇所を離れると、車窓はびゅびゅんと本来の車の動きを取り戻す。

 種田は瞼を下ろして、休息を取った。あまり眠れなかった、昨夜も寝付いたのは日が昇る少し前だ、開けた窓を通じた新聞配達のエンジンの加速と停止が聞こえていた。眠ったのはその後である。蒸し暑く、冬用の羽毛掛け布団も寝つきの悪さの要因であった、とにじり寄った疲労について考察をした彼女だ。

 シートに背中が張り付く、どうやら坂道を登っているらしい。まだ、瞼は下ろしている。現場に到着するまで開く気はない。

「着きましたよ、お客さん。うううん?なんだあ、あれ?」運転手の怪訝そうな、高い声で種田はパッチリ、目を開ける。料金を余分に支払う。紙幣を金額より一枚多く、シートの間の簡易なレジの台に置いた。

 煙、もうもうと上がる。西日が差し込んで、種田は顔をしかめた。ゲートはしまっている、施錠を確認後、勢いをつけ、赤茶けた二メートルほどの高さを躊躇なくよじ登った。

 白煙に駆け寄る。火は上がっていない様子、くすぶっているのか、それとも酸素の少ない空間で不完全燃焼を起こしたのか。種田は、しかしプレハブの事務所周辺に通報者がいないことを不審に思った。部長がいったタクシーの運転手は、どこへ消えたのだ?ここまで送ったドライバーが通報者と同僚ならば、事件や事故に関する交通に影響を及ぼす情報は共有しているはずであるのに、するとあのドライバーと通報者とは所属する会社が異なるのかも。あるいは、通報者はそもそもタクシードライバーではなかった、と想像がつく。