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巻き寿司の日1-1

 O署刑事の種田は鈴木と現場で解散して、S駅に向かうところを引き返し、事故現場の状況を改めて捉え直した。昨日の夕刻に起きた自動車事故は、一方通行の駅前通り、南へ下る斜線を逆走車が二条通りを左折し、個人タクシーが正面衝突を引き起こした。けが人は逆走車のドライバーとタクシーのドライバーにその乗客、計三名。ただ、病院に担ぎ込まれた逆走車のドライバーは搬送先の病院から昨夜姿を消したらしくS市の警察は、ほぼ一日経過した現在も必死の捜索を続けているとのことであった。

 隣町の管轄であるためにO署の人間に現場の滞在許可は下りず、かろうじて進入禁止のテープ内に身を置かせてもらっている状況の種田である。

 鈴木とは睡眠の確保のために一度自宅に戻って、翌日一度署に顔を出してから再度捜査に取り掛かる約束を交わして別れた。部署の出勤を確かめる上層部連絡係の事務員に出勤の事実を告げてもらうために、朝の決まった時間は席に着いている必要があった。その時間までに出勤すれば問題はないと、種田は考え、適度に疲労を感じ始めた体を休ませながら、事故現場の気にかかった箇所を拾い出した。 

 フランス料理促進普及協会の会合が行われるタレコミに基づいて、駅前通りに向かったのが昨日である。目の当たりにした事故現場のまん前がその会合が開かれるレストランであったのだ。種田は事故の状況よりも店の内部を知りたく、じっと角度と位置を変えては中の様子を探っていた。それでも、店のブラインドは下りたままで、通りに面したテラス席も椅子がテーブルに上がり、店を閉めた状態が続いていた、店員が出勤する気配は現在まで感じ取れていない。

 端末で調べると夕方から営業がスタートする。ランチタイムの営業も朝の十一時から行っているようだが店は開かなかった。これは事故現場見たさに来るお客を入店させないため、店の位を維持するための対処であると、種田は判断していた。

 歩道と平行に張られたテープをくぐって、通行人と帰宅の会社員、また暇をもてあます野次馬をかき分け、種田はフランス料理店の前に行きついた。フランス語で「正直者」と書かれた店名である。緑の庇から伸びるトリコロールの旗は力なく凪いだ風を受けてひらりと入店を誘う。