コンテナガレージ

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手紙とは本心を伝えるデバイスである6-1

 二F
 目覚ましが鳴る前に玉井タマリは体力の回復が完了した知らせを無意識に体が感知、起き上がる体勢に体を起こして、ようやく目が覚めた。仮眠室で寝ていたのだ、目を擦る、耐衝撃性に優れた腕時計を見ると時間は予定の半分に到達したばかりだった。眠ろうにも、もう眠れない。私の体質。重たい体と思い込んで、立ち上がると以外にも全体的なパフォーマンスは回復してるのかも、しかし、表向きの回復という説もありうる。
 不要な詮索は控えて、とりあえず一階に降りた。食堂で頭を動かすために栄養を補給しなくては。玉井は食堂の水をグラスに注いで、天ぷらうどんを手に取った。西日が差す人気のない窓際、奥の席に陣取る。うどんを二口運んで、顔を上げると、微笑を湛える刑事がデーブルの斜め前に立っていた。片手にはコーヒーのカップ。かすかにタバコのにおいが届いた。ちょうど、ここから右斜めの視界にガラスのブースが見える。動物園の檻はあのように見えているのだろう。人間が入っても遜色はないのだ、と玉井は思う。
「席を御一緒しても、よろしいですか?」
「どうぞ」
「末席に座る人は、全体を常に見ておきたい性格で臆病、神経質、目端が利くとも言われます」
「占いですか?」刑事の発言は、どことなく新興宗教に勧誘を思わせる。
「一般的な傾向です。まあ、それをデータとして行動に活かすこと自体が正しいかどうかは疑いますけれど」
「事件に進展はありました?」薄いかまぼこ、ピンクの半円を噛み砕く。てんぷらのちくわは半分が透明の汁を吸ってしなびてる。
「まだ聴取の段階。あなたにも幾つか質問し足りないことがあったのですよ」
「どういった内容でしょうか?」うどんを掬う手を止めて、きいた。
「社長の代理を任されたのは真実か否か」私は微かに表情を曇らせた、刑事が見逃すはずもなく、正面に腰掛けた姿勢は若干前のめり、あまり好意的な視線には感じない。玉井は、諦めて感情を殺すのをやめた。この人物には不必要だと、諦める。
「嘘をついていると思っているようですね」
「もちろん。疑ってかかるのが私の仕事。それに、人は嘘を無意識についてしまう動物なのです」
「あなたも人のことを言えた義理?」
「さすがに、社長の代理ともなると、切り返しが素早い」
「会話のテンポが遅くては話ならない。あなただって良く知っている。だから嘘をつけてしまう。言語化はそれほど遅れた機能ですよ」
「おっしゃるとおりです。はい」刑事は目を細めた。「社長が殺され、あなたへ送られるメールの仕組みについて知っている限り、あるいは予測すると、可能性はどのようなことがあげられるでしょうか?」