コンテナガレージ

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手紙とは本心を伝えるデバイスである5-3

「お子さんがいらっしゃるので?」

「ええ、いけませんか」またつっけんどんな言い方。

「仕事と家庭との両立は大変でしょう。子供とはかけがえないものと伺いますが、本心で言っている人がどれくらいかを考えると、半数以上は流れに乗って何の考えもなしに、ただその本能に任せ、その後の将来をも踏みにじる現実を見られない思考の停止。あなたは、一体どちらでしょうか?」

「あなた、独身ですか?」

「あなたの予測で正解です」

「それ以上言わないほうが身のため。子育ての何たるかは、子どもを持つ人だけが語る資格があるの」自分勝手だということは薄らいではいても、身に沁みてる。深層に居座って、常に毎日、毎時間、嫌というほど味わってる。嫌か……。そう、本心は、そうなのだ。優遇されてほしいのは誰って、当然自分が最上じゃないか。でも、まだまだ子どもを最優先に掲げていたい。いたい?願望か?いいや、違うの、そういう意味じゃなくって。上手な説明は難しい。つまり、どっちつかずは消化しきれていない証拠なのかも。

「では、口をつぐみます」刑事は優雅に羽ばたくような腕の動き、カップを口に運んだ。「あなたは隠している事実がありますか?」

「なんですか、急に」社はチーズケーキの三分の二を平らげた。残りをフォークで刺す。

「正直にお話いただいていない箇所があれば、早急にこの場で、私が席を立つまでの食堂のテーブルで打ち明けてください」

「ですから、何について話せばいいんですか?具体的にお願いしますよ」

「お二人の男性との面識は本当にありませんか?」

「……顔はそれは見たことはあるかもしれません。だけれど、込み入った話をしたとか、仕事場以外で会ったとかはないですよ」

「本当に?」

「信じられませんか?」

「こちらの前はどこの会社で働いていましたか?」質問が飛ぶ。

「個人のデザイン事務所です」

「退職なされた?」

「子どもが生まれましたので、それで。復帰したのがこの会社です」

「前の職場で、彼らに会ったことはなかったでしょうか。あなたが気づかなくても相手方が気づいた、あるいは見かけたということは?」

「昔の事を聞いてなんになるんです。事件は……社長が殺されたのに、昔の関係を調べて、もしかして古いつながりを見出そうとしてるのなら、見当違いですよ。それに知り合いだからって、家族を犠牲して殺人を犯す度胸はわたしにあるかどうか。明日さえ心配なのに」

「楽観的な解釈はあなたしだい」