コンテナガレージ

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適応性6-1

 車両の収まる倉庫の開かれた入り口に大型バスの前面がずらりと顔をみせる。屋外に駐車される車両も数台が並ぶ、あぶれたように数はそれほど多くはない。

 熊田たちは乗用車が止まる一角を、敷地内を徐行して探し当てた。ロードヒーティングではなく、車両の洗車がもたらすお湯によって敷地内は夏みたいに路面がむき出し、てらてらと光沢を滲ませて水蒸気が立ち上る。

 車を停めた右隣、明かりがついた二階建て、紺色の建物に足を踏み入れ、うつむいて書類をめくる制服姿の女性に呼びかける。すると担当者、それなりの権限を持った外見的な特徴、ループタイを締める白髪の男性が別室へ案内した。

 応接室兼休憩室といったところか、熊田は相手の男性に促されるまで、立ったままである。男性自らお茶を運び、着席を促されてやっと腰を下した。あまり大人数では圧迫と情報収集に緊張を強いるということで、鈴木と相田は車で待機させている。 

 正面に座る男性は名刺を取り出して名前を告げた。「I港湾バスの専務をやっとります、橋田です」受け取った名刺を熊田はテーブルに置く。

「O署の熊田です」

「同じく種田です」

「本日窺いましたのは……」

 橋田は早口でまくし立てて熊田の導入部を塗りつぶす。「従業員が何か、不手際でも起こしたんでしょうか?」

「いいえ、まったくの見当違いです。あの、どうか落ち着いてください」

「はあ、そうかい。ならいいんだけど。警察の人が尋ねてくるのはだって、そういうことでしょう。ドラマだって最初は関係ないとか言って、実は従業員を最初から怪しんでいたってのが、多いじゃないですか」

「罪を犯したり、犯罪に加担したりした人物を調べに来たのではありません。ご安心を」

「ちょっと、お茶を」橋田は口を尖らせ、ため息。「ふう、そんで、事件じゃないのにどうして警察がまたまたうちの会社を?」

「臨港沿いに新しいバス路線を試験的に走らせていますね?」

「ああ、あれな。臨港沿いの大型施設の建設計画にあたり、交通網の整備をその施設側が拡張、補強したいらしいんだ。空いている車両と運転手を貸し出して、今日も走っているよ。なんでも乗客よりも走行データが重要らしいね。この地域に新しくバス路線を増線したって、みんなバスには乗らないさ。車がなくては買い物にも出られないんだから」気が大きくなったのか、それとも喋りが緊張を緩和させたのか、もしくは従業員の不手際から解放されたからなのか、橋田はソファの背もたれに体重を預けた。