コンテナガレージ

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黄色は酸味、橙ときに甘味 3

 史実家の男は自らの犯した行動違反が理解にすらあがらない。欲の追求、使命感に燃えるがあまり、狭まった視野が落ち度を見逃し、岸壁を転がり落ちてしまう。

「……写真を撮っていただけですけれど」史実家の男は不都合でもありまたしか、表情を読み取る限り、依然として腑に落ちていない様子だった。

「この建物に入る条件として、解放の際に私どもは内部の撮影のすべて静止画を含む撮影機材の持ち込みを禁じてます」室内に踏み入れてから、男はカメラを肩にかかる鞄から取り出したらしい。事前に建物の入出時に持ち物の検査は行っていない。それは互いの信頼においてなされる約束事と、無言で確認しあった。アイラの持ち物はギター、スタイリストのアキこそボストンバッグを背負い込むが、こちら側つまり、アイラ・クズミ側の人間が、提示した規則を破ることは考えにくく、すると持ち物の対象は、市役所側が連れてきた人物たちにスポットが当るが、アイラたちからその指摘の提案は呼びかけにくい。市の担当者の入念な対応が入室前に行われていたら、問題は起きなかっただろう。今更遅い。原因の排除が適切な次の課題と対処。

「データを見せてください」カワニは手を差し出した。外は空っ風が吹く。階段を上がって空気が舞い上がる。髪が掬われる。

「冗談を。プライバシーの侵害ですよ」男は頬を膨らませた。「一九五一年の閉鎖を最後に、老朽化と耐震性の低さを理由に開放されていなかった。この建物はですよ!近代建築のコロニアル様式、鹿児島の産業の拠点となった歴史ある内部が見られる、このすばらしさをあなた方はもっと身に感じるべきではないんでしょうかね」

「ずれた論点」アイラが冷たく言い放った、この反論を最後に永久に顔を見ないことを誓う。「価値を味わうのは個人の自由であり、その評価は変容し得る。押し付けはあなたが訴える『侵害』そのものに値する。しかも、撮影禁止の約定、この締結は建物内に入ることで満たされます」

 市役所の担当者がカワニの隣に並ぶ。不穏な空気は感じ取っていたはず、遅れて駆けつけたのは、当事者同士で解決をはかる、一歩引いた揉め事を避けた態度に映った、役所の人間らしいといえばそうかもしれない。

「撮影の禁止はこちらの方にも伝えていたはずですが、どこかで行き違いがあったのでしょうか」彼女はその担当者にカワニの重なりをよけて、尋ねた。

「いいえぇ」わかりやすく担当者は首を横に細かく振った。彼は言う。「カラドさん、撮影の禁止は屋外であっても許可は下りていないと、お伝えしたはずです」

 地団駄、男は軽く靴底を摩る。「はあっ、せっかくいい画が取れたのにっ」