コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

機内 早朝 ハイグレードエコノミーフロア

「……私たちの断定が死体を作り出した。単なる精巧な偽者を、魂の抜けた人間と言い張った」目が覚め体が起きると寒気が襲う。それだけ体温の維持に欠かせない熱量を生むのか、眠っている、どんな気分だろう、やはり気にはなる、精神と肉体の分離を誰か教えてはくれないの。
 拍手。
「可能な限り選び尽くしたかに見えた隠された、いえ、見落とした本筋はひょんなところ、身近に潜んでいる、これがセオリーなのよ」言葉が弾む、調子が出てきたらしい。そのような時こそ自重すべきだが、相手は経験が不足してる。一時の快楽におぼれるか、寵愛は幻想である。
「だから?」端的に尋ねた。調子づかせてはならない、相手にも私にとっても不都合な出来事が一本道の障害物となるのだ、立ちはだかって、それでも越えることは要求される。まったく、そう、まったくだ。普段ならとっくに一人に浸る私が不足分の惰眠をむさぼる。
 外光が差し込む、闇夜の薄暗いフロアとでは音の重要度は格段に下がる。真昼でも暗ければ、騒々しい都内にも静けさや周囲を気遣う控えめな精神とやらは、各自の身に芽生えるのか、どうか。
 無礼。躊躇なくシートを倒す君村ありさは、これが本質なのだろう。普段は控えめ、家族の前では見せることをはばかられる。描いた母親像、無邪気、笑みがこぼれる、いたずらな瞳、敏感な鼻、薄い唇、刻む頬齢線。
「アドバイザーになりなさい、私の。あなたの言うとおりに歌うわ。かつてない身に余る申し出」含み笑い、こぼれる笑み、あふれ出す邪心。にじむ虚栄と私の背後に見出す栄華。朝日は影ばかりを強める。
 重たい瞼に主導権を譲る、視界をそうして切り離した。呼気が頬を鼻の頭にかかった。
 説明を施したのだ、もうなにも。
 やっと帰ってくれた。
 熱い。
 放熱は私にはひどく体力を消耗させるらしい。毛布を引き寄せ蒸発した汗を周囲にとどめる。悪いことばかりでもない、思考回路は準備運動を整えてる、あとコーヒーが飲めたら、とアイラは贅沢な世界は広がった。
 寝息が充満するフロア、呼吸を合わせたら意識が遠のいた。