コンテナガレージ

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仕事(フリーライター)、日常、小説、その他諸々

赤が染色、変色

「中身はどうしても男っぽいのよね、あの子」くすっと、三葉は笑いをこぼした。コンロに立って、火を弱める、この辺りから失敗は許されないのよ。だけど、ははは、笑える。昔の私みたいなんだもの、あの子。けれど、それが異性には強力に作用するって気付くのはもっとさきのことだったりするとは夢にも思っていないでしょうね。ほほほほ。

 乾いた年季の入ったフライパン、家に移り住んだときに買った由緒ある同年代の代物、数々の味が染みた鉄製のフライパン、洋食屋で拝見する例のもち手に熱が伝導するタイプ、これでニンニク、しょうがをラードで炒めて、小麦粉をざばっと、市販のカレーパウダーも同様に。固形のブイヨンと今日一杯が消費期限の冷蔵庫のかつお出汁を混ぜて、ぐつぐつ煮立ったら、ローリエを一枚魔法をかけるように鍋に投下、そしてそして炒めた具材と出会って、完成。

 かれこれ二時間の格闘だった。

 スプーンでルーを掬う、額の汗が落ちないように手の甲で脱ぐ。ふうふう。あちち、うん、うん?うーん、うんうん、ううん。いける、やるじゃんか私、軽く拳を握る、自然を肘を後方に引いてしまった。大人気ない、年齢にそぐわない、そういった一般的な意見を彼女は受け付けないどころか、跳ね除ける。だって、子供の頃の大人びた性質も矯正されたんだもの、精神年齢は人それぞれじゃないのかしらって、何度言いかけたことか、けれど、はい、私は大人で子どもの精神を持ち合せたいんでね、そのあたりは上手くあしらったの。

 おいしい、我ながらあっぱれ。

 とはいえよ、まって、松田三葉は思う。

 美味しさに舌を巻いて、これは考案者に習ったんだろう。そうして作り上げた味が広まって、作った人の価値はたぶん失墜した。しばらくして囃されたものの、その人が見出した事実なんてありはしないのだから、考案者を触れ回る心無い、狡猾な人が大多数だった、と想像が勝手に膨らむのは、どうしてかしら、彼女は出来上がるカレーの完成に酔いしれたつい先ほどの彼女を忘れる。

 アイラからすべてが始まったのよ。彼女が先頭で、先進、古くて、ただし先端。あらゆる世界の潮流を、彼女を求め触発されたあらゆる芸術家たちが作り出し、生み出し、呼び出す。知ってて欲しい、少なくとも彼女が物事のキテンであることを、あったことを、これからもこれまでも、いつでもいつも……。