コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

ガレットの日6-3

 小川は左に曲がった。肩に下げた茶色のショルダーバッグがひとりでに動いた。小川の姿を、歩道橋で視認。種田は、見上げて、階段を駆け上がる。息も上がる。揺れる橋、弾む呼吸。川を跨ぐ橋だ。景色に見とれている暇はない。三車線の道路、片方ずつあわせて六車線分を渡りきった。さすがに小川も息が上がったらしい、諦めて歩道橋、階段下のベンチにへたり込でいた。

「警察です」膝をついて種田は言った。

「……はあ、警察?何、あの人たちの仲間じゃないの?なんだ、は、走って損した、ふう」小川安佐はベンチに座って、背もたれに体重を預ける。頭上、日光を遮断する街路樹が揺れる。「警察が、私に用事って、うん?あれ、刑事さんじゃないですか?」

 顔を上げた種田に小川が気づいたようだ。「ええ、こんにちは」

「刑事さんだってわかったら、もっと早く止まってましたよ。しっかし、私たち結構走りましたね、小学生以来かも、道路の全力疾走は」

 息を整えて種田は事情を話した。上川謙二が亡くなったこと、彼が焼きそば協会に所属していたこと、彼の関係者からの情報が極端に少ないこと、手帳に店の詳細を調べた形跡を発見したこと。小川の前に国見安佐に話しを訊いたことは黙っていた。好奇心旺盛な人物に対しては、初めてや自分だけ、という感覚に惹かれやすく、小川の饒舌ぶりを彼女は見込んで、折り入ってあなただけに話すと明言しないまでも、それとなく実は、そういったトーンで話を切り出した。

「私に言われても、ちょっと実感が湧きません。第一、仕事上の付き合いであっても川上さんという方については、ほとんど面識も接触もない。店長なら話し込んでいたことはありましたけど、それも五分ぐらいだったと思います。私たち従業員の知らない、見えないところで連絡を取り合っていたかもしれませんね、店長は。まあ、でも可能性はないですよ。店長は裏がなくて、表だけの人ですから。私たちの前で仕事をこなします。電話も業者とのやり取りも。なので、他の従業員も川上さんについては、私と同じ意見しか聞けないですよ」

 小川の隣に座って、種田は話を聞く、呼吸の乱れは平常に戻っていた。「走っていましたね、後方に意識していた、誰かに追われていたのですか?」

「ちょっと怪しい人たちを店の前で見かけたので、一応裏口から出てみようと思って、ええ、路地を抜ける間際にそれとなく、振り返ったんですよ。そしたら、追いかけてきたもんだから、もう走って走って」

「外に立っていた人でしたか、その人物は、顔は確認していましたか?」

「それが振り返った時はビルの間の路地で、はっきりとは見えてない。男だったとは思います。刑事さんに呼びかけられる前に振り返った時も、人ごみで走ってる人物を動きながら見たので、顔は覚えてないです」

 通行人は書店ビルの前に比べると格段に少ないが、人の動きは常に視界を出入り。

「怪しい人、というのは?」種田は訊いた。

「フランス料理促進、ええっとなんだけ、促進、促進……」

「普及協会」