コンテナガレージ

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ガレットの日5-2

 一冊、目当ての物が置いていない、レジで聞くと売り切れていたようだ。アメリカのレースで日本人が優勝した影響だろう、普段購買を控える人が買ったのか、仕方ない。国見はエスカレーターで二階に上がり、隅に追いやられた出入りの少ない即席、大学生が催すカフェでコーヒーを飲む。軽食のクッキーを一緒に頼んだ。これが今日の食事。動いていると食べたくなくなる性質は、緊張のため。体には悪いが、消化に回せるだけの体力は仕事に使うのだから、体にはこれで十分。

 一段上がった床に響く足音。国見は気配を感じる、顔を上げた。

「お時間よろしいですか?」男性である。それと女性も。女性の顔には見覚えがあった、確か……隣町の刑事だ。これで私の捕獲ではないことが知れた。何を安心しているのか、彼女は否定側の立場すらもトレースしてしまう自分を呪った。

「警察の方?」周囲にお客はいない。レジとカウンターが一体となった、本屋とカフェとを遮る観葉植物の鉢が切れた入り口を確認、小声で国見は応えた。

「あれっ?どこかでお会いしましたか?」

「私です」女性が前に出る。

「種田の知り合いか」種田、そうだ店の通りで起きた殺人事件の担当者だった人、思い出した。

「こんにちは」種田が頭を下げる。

「どうも。隣町の刑事さんがどうしてまた、それも休憩中の私のところへ?かなり特殊な事情ですね」国見は少し意地悪で、言ってみた。休憩時間は貴重である。しかし、体力の回復には十分だった。数十分は惰性で過ごしてる。

「この方をご存知ですね」種田という女性刑事は、スーツのポケットから写真を取り出した。

「ああ、来ましたよ。フェスの担当者です、川上さんという方です」

「先日亡くなりました」今日の天気を会ったそばから話しかけるような言い方。前置きなどこの人の態度には微塵も感じられない、ただ国見は非常識には思えなかった。むしろ、達観している。つまり、死を受け入れた上で刑事が話しているように思えた。しかし、私に川上の生前の姿を聞くことが果たし必要だろうか、彼女は思いをめぐらす。

「そうですか。ただ、私にどうして質問を?」上目遣いで国見がきいた。質問者が相手、訪れた刑事から、こっち館山に入れ替わっている。店員が水を運んでテーブルに近づく、からからとグラスがせめぎ合うみたいに音を奏でて、二人の刑事はすぐに店を出るつもりの立ち姿をやめて、席に着くことを選んだ、一度顔を見合わせた。

 他に幾つか関係先を回る予定なのだろう、いちいち味わいも休みもしないのにコーヒーを注文すると莫大な経費が請求される。もしかすると、一定額、一日の使用額なるものが警察であっても決められているのかも。使いすぎは良くない、税金だから、そういった安易な理由ではない。むしろ、制限を設ける上限額によっては不要な飲食、支払いが軽減されるのだ。彼女、国見は店長を通じて学んでいた。

 しかしながら、どうして刑事が、という疑問はまったく拭えない。関係者の話を聞くとしても数回会っただけで、直接話をしていたのは店長だ。国見が席を外したときに写真の人物はその前に店を訪問していたらしい、知っているのはその程度の情報、役に立つとは到底思えない、国見は話す前に一応持ち合わせた情報を整理した。