星ヶ丘駅は、北口と南口を構えている。これは駅を中心とした発展に町が伴っていない要因である。つまり、あらかじめ街がつくられ、時を置いて駅がつくられたのだろう。線路は通ってあったが、拠点となる駅の必要性の高まりを感じた駅づくり。だから、高台の崖を繋ぐ、スロープと駅舎、階段、そしてエレベーターなどを配置した。
種田は、駅前のロータリーで車を降りた。駅に直結するスーパーの前に駐輪場が見て取れたが、止まっているのは自転車のみ、彼女は視線を走らせて二輪車の駐車場所を探す。電話ボックス前に、駅舎のスロープ入り口の前である。しかし、近づく必要はない、見えたのはスクーターが二台だった。
車から降りようとした鈴木だったが、背後からバスにクラクションを鳴らされて、移動を余儀なくされた。種田は改札までの階段を上る、まるで工事現場の赤錆びた鉄鋼をのなかを駆け上がる気分だ。
三段目まで上がるとスーパーに繋がる連絡通路、もう一段上ってやっと駅舎らしき雰囲気を、壁に貼られたポスターで知れた。ポスターはよく弧線橋の対岸に渡る外を眺める窓の下に貼ってあることが多い。改札口を右手に、左手下に線路。種田は突き当たりまで歩く、まだ呼吸は乱れていない、とにかく一刻を争う。バイクに乗られてしまえば、車が追いつく道理はないのだ。
階段を上って、やっと外に出た。駐輪場を確認。バイクは止められていたが、大型車だった。義堂が言った国産のバイクは種田の記憶によれば、中排気量で日本製の古いバイク、種田が捉えたのは外国メーカーであった。
周囲を見渡す。彼女は駅入り口に通じる道路を眺めた。しかし、防犯カメラの映像は期待できない。一帯は住宅街、商店などの店舗は見当たらなく、住宅がひしめき合うばかりだ。
端末が鳴って、種田は耳にそっと当てる。
「はい」
「バイクは?」
「ありません。防犯カメラの映像から追うのは難しいと思われます」
「そこの入り口で待ってろ、車を回す」
鈴木の迎えを待つ間、種田はとってつけたような歩道に近いベンチ、通行人にまじまじと見られることをお構いなくゆっくりと腰をすえた。そして、柏木未来の行動に意識を這わせた。