「休みをもらえるんですかぁ!?」
「しゃべるか、食べるかにしろって」
「だって、ここに配属されて年末に休みらしい休みは取れたことがなかったでしょう、思い出してくださいよ」
「勘違いしてる」相田がゆっくり麺を啜り、間をおいて言う。「休暇を年末に要求すること事態が間違いだ」
「でも、他の部署の人は結構がっつり休みを取っていますけどね」
「何か言いたげだな」熊田は箸を止めて、鈴木に問いかける。
「いえ、そういうわけでは。……ただ、うちの部署ではそういった休暇への配慮という項目は組み込まれていないのかなあ、と思いまして」
「部署の出動傾向を言ってみろ」
「それは、ええっとお、応援要請です……」
「人手が少なく、他部署が手薄になる時期というのはいつごろだ?」
「年度の変わり目と夏休みそれから、年末年始」
「そういうことだ」
「はあ、諦めるしかなさそうですね、コンサート」
「お前にそんな趣味があったとは驚きだね。部屋にスピーカーとか置いていたりしてな」相田は半分の麺を食道に流し込んでいた、熊田はまだ二口目を啜って、胡椒を振りかけたところである。鈴木は相田の発言が聞こえなかったように無視、熊田に言う。
「野外コンサートを冬に行うって斬新だと思いませんか?」
「お客が来るのか」熊田は胡椒でむせた。
「巨大なテントが会場ですから、お客にはあらかじめ防寒着の着用を義務付けて、めんどくさいことをあえてお客に強いる、そういうコンセプトなんですよ」鈴木の箸が熊田の目線の先で指揮棒みたいにリズムを奏でる。
「集客もままならないんだろうな」どんぶりを掴んで相田はスープに取り掛かる段階。「一筋縄ではお客は集まらない。けれども、それってお客を楽しませるというよりは、必死で他の歌手に流れるお客を食い止めているようにしか思えない」
「……会場を押さえた後に発案されたみたいですよ、今回のコンサートは」
「どこだよ?」
「臨港ですよ、I市とО市の境界線が錯綜している」
「あそこは夏にいつも大規模なフェスを開演しているところだろう、行ったことはないけどな」
「ええ、ですから会場の選択はあながち間違いではない。ただ、演奏を妨げるほどの寒さ、特に指先や声、体の冷えがパフォーマンスに悪影響を与えない程度の室温が保たれるか、という懸念はありますがね」