コンテナガレージ

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適応性2-2

「目新しさで足を運んだお客っていうのは、また別のスポットが出来上がれば、そっちに流れてしまうんじゃないのか。どんどん世代は変わっても、ぽっかり穴が開く、消費盛りの二十代や三十代に空白の年代は出現しないだろう?」

「極端すぎますね」鈴木は指を立てる。「それに、だって同じ場所でもテナントを入れ替えれば、一新されるでしょうし、その施設への移動が新鮮で面白みがないと思うようになっても、通勤のルーティンではないんですから。もっといえば、買い物のために来店するんです、高揚感が日常と手を切ってくれます。土曜日の朝のように出勤が億劫だけど、道や電車は空いていて、抜けるような青空が広がっていたら、いつもとは違うって思います」
「……お手数おかけしました、失礼します」助手席で電話をかける種田が端末を切ると後部座席に睨みをきかせた、どうやら雑談がうるさく、音声が聞き取りづらかったらしい。熊田が場を和ませるため、忘れ物のガイドブックの詳細を出版社から聞き出した種田に詳細を尋ねる。

「回答は?」

「このような書籍は売り出していないといっています。アース・ウォーカーは北海道全体を視野に各地を網羅するタイプと、有名な観光地に特化したタイプの二種類、I市は全体の中に含まれ見開き1ページのみ。掲載する情報が極端に少ないのが特徴、読者から寄せられる要望にI市の名前はほとんど聞かないそうです」種田はそこで言葉を切った。絶妙な、話に引き込む間で再開。「ただ、妙にI市という言葉に相手方の緊張を感じ取ったので、問いただしてみたところ、I市に建設が予定される施設に合わせ、新たに専用のガイドブックを作る計画が先週、決定したそうです。上役の会合で決定、社内のごく一部の限られた人物しか知りえない事実らしいので、驚いた反応は私が聞きだすための演技ではないでしょう」忘れ物のガイドブックは前半と後半がそれぞれ空白、中ほど、百ページほどの分量の中間に現実に存在しない架空の都市が掲載されている。気候、人口、風土風習、交通網、季節ごとのイベント、観光時期などのデータに加え、すがすがしい見上げる空がバックに写る建造物と並ぶ。遊びにしては力が入りすぎている、熊田は種田が持つガイドブックを手に取り、しげしげと視線を走らせる。

自費出版……、そういう本職とはまったく無関係の趣味をあくまでも副業の範囲内で愉しむ人たちがいるのは、聞いたことがあります」覗き込む後部座席の鈴木が記憶を辿る、たどたどしさで発言する。

「架空の地図を作って、空想でその町に繰り出すのか?ゲームと空想の中間みたいなもんか」