「表紙は閉じてあったのか?」
「そうか、未完成ってことはないのか。すると、あれが完成形なのか」
「不満げだな」
「架空の都市が掲載されているからですよ」相田もタバコを咥えて言った。
「しかし、場所はI市なんだろう?」
「ここら一帯の土地勘はないので、なんとも言えませんけど、ガイドブックに載った建物は現在の建物とはほとんど符合しません。変化のない海岸線と海は健在でしたが」不信感をにおわせた部長の突然の登場を相田は確かめる。「あの、どこから情報を聞いたのですか、上層部からですか?」
「出所はいえない」
「いつもの逃げ道」種田はストレートに逃げようとしない、忌憚のない意見を放つ。
その場が沈黙した。
相田が口を開きかけて、タバコを離そうとしたら、彼が先手を打つ。
「あそこの車両はお前たちの車か?」熊田たちが振り返る。
「見覚えはありませんね、ナンバーを照会しますか?」
「いや、話を聞いてみるといい。近隣の住民かもしれん」署員たちの視線が車に向けられた隙に、部長は車に戻る。
「部長、どちらへ?」鈴木が呼んだ。
「署に戻って現物を見てくる」
「そんなに重要な証拠には見えないのに……」
部長は車に乗り込み依頼に応えるべく、移動を開始した。