コンテナガレージ

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適応性5-1

「TAKANO建設の山遂と申します。初めまして」

「ああ、あなたが山遂さん」アイラは靴先から頭までをゆっくりとこちらにはっきりと読み取れる目線を向けて言った。外見はほぼ日本人そのもの、灰がかった瞳の色が外国人全としただけで、身長は標準的な日本仕様。

 床と天井の温度差が激しく、山遂は室内に入った途端に息苦しくなった。彼は比較的痩せ型であるが、暖房の暑さは苦手としている。末端が冷えずに、送られる外気が遮断されれば、彼に十分な室温。

「ごめんなさいね、今日中に敷地を見ておきたくて歩いていたんだけど、吹雪で前が見えなくて行き着いた建物でしばらく雪をやり過ごそうと思ったら、ここがプロジェクトの中枢だって聞いたものだから、ずうずうしく中に入れてもらったんです。仕事は明日からきっちり。ええ、その辺はわきまえています」日本的なやり取りが通じない、秘書が言っていた内容とずいぶんずれていた。もしかすると女性への態度を変えているのかもしれない、山遂はアイラの行動にそれとなく意味づけを行う。

「そうでしたか。私はてっきり、その、スケジュールを勘違いなされているのかと思っていました、良かった」

「世界で仕事をしていますので、時間の感覚はこちらの方よりも敏感に読み取っています」アイラは一拍間を空けて続ける。「電車や地下鉄のような正確さを言っているのではなくって、時間にルーズな人種、土地柄での仕事をこなすと、相手の感覚にこちらが寄せ、または遅れる時間も予定に組み込む、そういった感覚を養ったという意味で言ったのです。ご理解いただけました?」口に出す前に疑問と疑問の誤りを言い当てられた。山遂にとって頭の良さとは回転率を指す。知識や認識、理解のベースはもちろん、なりよりも意思疎通のテンポアップ、強弱を自在にこなせてしまえる、それも無意識にやってのける人物を尊敬とともにうらやましく思うのだ。自分では到底なしえない領域の一部が覗けただけでも、ありがたい。彼女、アイラという人物は理想に近いのかもしれない。外見、容姿が端麗であることが理想の条件に含まれていたのは、自分には意外な発見であった。山遂はあまり女性の外見には頓着しない性質でこれまで生きてきた。しかし、理想に出会っていなかっただけかのかもとアイラと対峙してみて思えた。

 コートを着たままのアイラは二十畳ほどの室内を後ろ手でずっと歩いている。二重サッシの窓が六枚、その前を彼女は行きつ戻りつ。

「私の意見はどの程度採用されるのですかね。もちろん、すべてを受け入れてもらえるとは思っていません。権限の幅というか、譲歩の度合いを事前に教えていただけると大変ありがたいのですよ」

「私の一存ではなんとも、返答しかねます……」山遂は畏まり、語尾を濁す。