コンテナガレージ

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非連続性2-5

「何?」アイラもきいた。

「ガイドブックの地図はアイラさんの構想によく似ている。バスの中で私はいつも建設予定地の図面や計画書などを広げて一日の仕事のまとめを車内で行っていました。亡くなった女性はいつも前の方の席に座りますし、乗客は僕と彼女だけですので、重要機密が書かれた社外秘の資料も臆面もなく読み込んで、ときには資料から視線をはずして車窓を眺めて明日の予定や予定の遅れなどに意識を奪われたのですよ」

「つまり、機密が漏れた可能性が無きにしも非ず、ということですね」種田が山遂の意見をまとめ上げた。後方、三人の警察が車に乗り込んだ、また風が吹き始めてきた。

「情報を盗んだために彼女は殺されてしまった」山遂が大胆な推理を展開する。思いついたことを容易に口走る、とアイラは山遂の性質を再認識した。彼女が感じた表向きの印象とは異なっていた、案外非常な内面が隠れているのかもしれない。

「山遂さんが犯人ということにもなります」しかし、種田の意見がずば抜けて鋭利だ。

「そうか、そう、ですよね。けど、違いますよ、誓って僕じゃありません」山遂は必死に推論に浮かび上がった自分の影を消しにかかる。アイラは妹の反応が見たくなった。問題へのアプローチが気になる。

 斜めを向いて種田が言う。「殺害した上に犯行時の意識が確かなら、現在警察の前に現れはしないでしょう。警察との接触は極力控えたい、犯罪者でなくとも市民全般の心理です。稀に首を突っ込みたがる人物もいますが、仕事を抱えるあなたにその余裕があるとは思えません。つまり、あなたが犯人である確率は低い。あくまでも現時点での見解ですが」

「裁判官みたいな話し方」

「くだけた表現よりは浸透性が高い」

「本当にそう思ってる?」

「思っていたら、今頃は怒鳴り散らしている」アイラは妹と目を合わせた。ウイットにとんだ受け答えは、後天的に獲得したのではなく、むしろ先天的な要素が絡んでいるはず。私の投げた球と同様の起動、半円を描いてミットに収まる経験は帰国後の短時間では初めてだ。

 見つめあう、見方によってはにらみ合い、アイラは合わせた目線を切った。山遂は交互に視線を移動させて、はたと気がついたように動きがとまる。「もしかして、お二人は姉妹ですか?」

「内密にお願いします」種田が言う。