コンテナガレージ

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仕事(フリーライター)、日常、小説、その他諸々

パート3(6)-6

老人は続けて話した。「家には誰もいないようだったね、鍵がかかっていた。家に電話を入れたら、繋がってお母さんと連絡が取れたよ。どうする、家で待つかな、それとも君の家に帰るかい?ああ、その前に、体は大丈夫?」家の電話は一定のコールまでかけ続けると、母の端末に転送される。自宅の電話が転送されるイコール緊急事態なのだ、僕は瞬時に忙しい母が電話に出た理由例を挙げた。多少後頭部に痛みと熱を感じたが、僕は黙って首を縦に振って無事をアピールした。その証拠にカップを一気飲み干してみせた。年配者への気遣い。左に回した首が重たい、読書が原因だろう。

 きしむ階段を下りて玄関を出た。向いの老人に一礼、ドアの遮蔽音を耳で聞き取って僕は立ち止まって眺めた。騒がしかった通りは、歩道脇に飛び散ったライトを覆うカバーの欠片が取り残され、住人も事故車も消えていた。さっき見た映像は夢だったのか、僕は視覚を疑う。足取りをたしかめるように通りを横断、僕は老人宅の玄関隅に立てかけられたゴルフバックと茶色のショートブーツを数時間前の記憶と結びつけた。

 偶然だろう、ブーツはログハウスの老人が履いていた靴と酷似していた、同じ製品である確率は高い。手に持っていたのはゴルフクラブだった。しかし、ログハウスの老人と向いの老人の顔かたち、背丈、風貌はもろもろ同一人物という認識を僕に与えない。人を認識できない病気ということでもないんだろうか、現に向いの老人として会話をしたのだ。しかし、だからといって彼らを、行動を否定する材料が足りないのも事実だ。

 見えなくてもいい所が最近は見えてしまう。真実は残酷なのだと言い聞かされているように思えた。仮に、視野が確保されていたら、相手の隠された持ち物やブーツの種類は覚えていなかったはずだ。

 母の帰宅までは、室内で縄跳びの練習をカメラに見せつけた。母は帰るなり、僕の身体をつぶさに触って傷の有無を半ば嘘を吐かせるような形相で追及した。けれど、無事がわかると大きなため息をついて、ソファに寝転び、夕食の出前を僕に懇願するのだった。不安定な心理状態が安定に戻る、人は安堵しこれまでの要求を忘却する機能が特定の人間には備わっているのだろう。期待はしていない。むしろ、こうしてパターン化された行動を取ってくれたら、僕の安心が高まる。