コンテナガレージ

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蒸発米を諦めて3-11

「ライスを頼むのは、メンチカツにハンバーグ、鶏の照り焼き、それに今日の焼きカレー、店長、その試作品はメニューに加えます?」女性を見送った通路の小川が指を折って数えた。

「うん?ああ、焼きカレーは、どうだろうか。白米と一緒に出したいとは思うね。でもまあ、テーブルに一皿の注文としたら、分け合って食べるから、メーンの扱いにはならないでしょう」店長は口を左右に引く。レジの国見は彼の強硬な手段までの経緯を脳内でさらっているらしく、首の傾きはホール天井のシャンデリアに見とれるように、店長には映った。

 小川が食器を洗い終り、シンクに溜めたお湯を抜けば、排水溝の雄叫びが聞こえた。

「カレー、私も味見したいです」思い出したように小川が言った。

「いいよ」

「わーい」

「お前さあ、もっと危機感を持とうよ」館山は中腰で横切る小川にあきれた。

 店長はカレーをよそった耐熱性の皿を、小川に渡す。

「そういえば、栄養学的にお米、白米のことですけど、ううん」小川は口に運んだカレーに熱さをこらえて目を瞑る。「積極的な大量摂取は、ビタミンBの欠乏症、いわゆる脚気を引き起こす可能性があるんじゃないでしょうか」

「江戸患いだろう、別名は」

「江戸で白米を食べるのが流行ったのにあわせて、病気が広まった。当時は参勤交代の時代でしたから、江戸の赴任はかなり嫌がられたらしいですよ」

「急に、料理学校で習った知識を私は知ってますって、褒めてほしいなら、ほかでやってくれよ」

「小川さんの、主張は?」店長は手元を見つめたまま、話の先を促した。

「お米が海外に輸出されて、国内の価格も上がる。それはつまり、特定の所得層にとっては消費の機会が偏る。すると、その人たちは病気にかかる確率が高くなると思うんです」

「そういった人たちは別の食材で栄養を補っている。病気のほとんどは食べすぎ」