コンテナガレージ

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蒸発米を諦めて3-10

「理由は?」

「非情な言い方かもしれませんけど、お客さんに子供がいるのかどうかも明確にこちらに証明してはいません。それに、急を要するのなら、偶然にランチタイム終わりの仕込みの時間に現れるのも、どこか狙ったような、上手く言えませんけど、その、話を聞いてくれる時間を選んでいるようにも思えます。逼迫して混乱の様相だとご自分でもおっしゃっていましたが。しかし、うーん、今までそれこそ何をしていたんでしょうか。こちらへの迷惑を最小に抑えるほど、子供さんを優先させるからこそ、お米を譲って欲しいとお願いにやってきたのに、見たところ、あまり雪にも濡れていなかった。他の店だってそんな長時間店先で相手はしてくれない、ここに来るまでにいくつか店を回ってきたのならば、コートや髪に積もった雪が融けていないのはおかしい、また肩口もほとんど乾いている。地下鉄や地下道を通ってここまで来たと思われても仕方ないように思います。あれ、なんか私また余計なことを、言って、はい、とってきますね」

 小川に張り付く常識を隅から隅までぬぐい落としたら、彼女の能力は格段に高まる。料理に留まらない、汎用的に基盤を支える源が植え付けられた教えの守りに徹して、上手に使いこなせていない。周囲との違いを恐れているくせに、本能は違いを願い、選択に迷いが生じて行動が抑制、動きがぎこちなく、決断も曖昧。ただし、ふとした恣意的な瞬発力は目を見張る。店長は小川に自分でも意味を持たない微笑を送って、女性へお米をわたすように意思を込めた。

「米三キロに水が一・八リットルで四・八キロ、一人前が百八十グラムで約二十七人前。一人前二百円、五千四百円ですね」

「私を信用してくれるのですか?」

「正直、私はあなたにお子さんがいるのかどうかを疑いません。お米がなくなるのは必然ですし、価格も店の料金体系にのっとり、徴収しました」

「よいしょっと」小川が肩に担いでお米を運ぶ。一度、床において彼女はきいた。「持てますか?結構重いですよ、気をつけないと腰やられちゃいますよ」

「お米を運ぶぐらい、なんともありません。子供に食べさせられない苦しみに比べたら、一過性ですから。疲れたら休めばいいんです」

 女性は一万円札を置いて帰ろうとしたが、国見がきっぱり料金通りにおつりを手渡す。おなかに抱えたお米は用意されたエコバックに収まり、女性は店を離れた。