コンテナガレージ

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蒸発米を諦めて3-2

「可能性はあるんじゃないかな」店長は、サロンから目線をはずす。「自分の味覚に自信がないみたいだ」

「それはそうですよ。まだ、だってランチのメーンも任されていません。間違って覚えた味かもしれない。店長はその、覚え初めの頃は怖くなかったですか、自分の作る料理を提供することに後ろめたさは抱きませんでした?」

「怖い」店長は出窓付近に立つ館山に言う。「それは今も変わらない。自分の店を持った現在も不安要素に変化を感じたことはあまりない。経験の多さや見接してきた場面による恩恵は後押しの材料にはなっている、しかしだからといって、味のコンタクトは不変だ。安易に手軽にレシピが手に入る時代だからこそ余計に、味のバリエーションに大きな差異や違いはもう生まれない。僕の場合は手に入らないレシピがあったので、試行錯誤に取り組んだ。ただし、立山さんの時代に生まれていたら、味の組み合わせは過去の誰かの試し尽くしたおいしいとされるバリエーションが、経験と体験を越えて再現を試しただろう。お客にとっては、どちらも料理で味の表現なんだ」

「とてもクールですね。私が昔に生きていたら、料理に割く時間を考えたら、料理は作っていなかったかもしれません」

「限られた一日をどれにどのぐらいどの程度の割合で、という最良の見極めが十分ならば、明言はできないが、不可能ではないと思う」店長はステンレスのポッドに入るスプーンを持ち、カレーを味見する。隣では館山が味のマッチ、感覚の類似性を願った目で覗いている。

 最初に蒸し鶏を、続いて強火で焼いた鶏、そしてゆっくり焼いた鶏を順に口に含んだ。蒸し鶏は酒と塩で薄味をつけていた。そのためにカレーの味が若干尖ったように感じる。今回はナンにつけてカレーを食べてもらうので、白米のような食べ進めるスピードよりも若干速度は落ちのであれば、食べ終わりに味の濃さを感じるだろう。今回は蒸し鶏の不使用を決めた。焼きカレーにチーズや乳製品を混ぜて提供する算段を思い浮かべる。