コンテナガレージ

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蒸発米を諦めて4-1

 午後のディナー、営業再開の三十分は夕方ということもあり、お客の入りはまばら。近隣で働くサービス業のお客が遅い昼食を摂るぐらいで、年始、週末の買い物客は午後の買い物か、午前の早くから活動を始めた人たちはそろそろ帰宅の途についているのだろう。土曜の夕方にしては、通りの賑わいも大人しめであった。

 だが、ひとたび入店の流れに火がつくと、いつの間にか行列が出来上がっていた。ライスの提供中止は、表の黒板に書き、事前に食べられない事情を伝えているにも関わらず、注文の予測に若干の不安を抱いたライスとの相性がいい揚げ物や肉類をお客は無難に注文。単品で一テーブルに一皿の予測は的中したらしく、オーダー表は炊飯器の脇で重なる。

 せわしなく動く厨房は店長と館山でタイミングを合わせ、料理の提供に奔走する。お客の注文が提供能力を超えている場合は、優先順を心がける。テーブルにすばやく最初の一品が並ぶようにホールの国見と連携を取る。カウンターのお客は二人組みか、一人のお客であるので、こちらのお客はさらに気を使う必要がある。滞在時間が大人数よりも短い分、ある程度の優先を必要とする。そのあたりの感覚は、お客とのアイコンタクトが重要な指標となる。料理を今か今かと待つお客は必ず厨房に視線を送るのだ。

「店長、あの、入り口のお客さん、かなり酔ってます。独り言が多くて、他のお客に迷惑じゃないでしょうか?」釜から引き出した焦げ目にチーズが溶けるピザを大判の皿に乗せて館山がボールペンでオーダー表にチェックを入れ、料理を国見に手渡す。店長は余熱でじっくり火を通すメンチカツを一口サイズに包丁を入れ、盛りつける、それをなくなりそうな皿をせっせと洗う小川に運ばせた。

 油に浮かぶ、衣を丁寧に取り除き、店長は応える。「絡んでるの?」

「いえ、独り言です。ただ、声が大きくて」

「もう少し様子を見よう。ストレスだから、吐き出せば大人しくなるかもしれない」

「居酒屋と勘違いしているんじゃないっつうの」彼女もストレスをぶつけて、持ち場に戻る。