コンテナガレージ

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予期せぬ昼食は受け入れられるか?6-5

「報道は真実とは違うって体感しましたよ。言い訳に聞こえるから、あの両親も反論しなかったんですね。それに子どもがこっそり死んでしまうかもしれない食べ物を自分の意識で口に運んでいただなんて。……子供が誰よりも大人だったって、ことですよね」小川がスポンジを握り締めて、呆けたように斜め上を見上げる。

「親だからって大人とはいえない」

「いつかは親になるのか、私には想像ができないぁ。店長は子供の頃どんなでした?」

「今と変らないよ」

「お米の価格上昇は、今後も続くんですかね」厨房の床をデッキブラシでこする館山が呟いた。

「先輩、私が店長に質問しているんです、待ってくださいよ順番です」

「順番を待っていたって……、応える権利は店長が持ってる。あんたに言われたくない」中間のためらいは倉庫での国見とのやり取りだろう、小川によってあの場面が伝達されたと、店主は解釈する。

「関係性があるから、もっといやらしくいえば、利益に関わるために報道がなされている。ライスを提供する飲食店は安価で高品質な商品を独自に手に入れる。それらを販売、お客に食べさせ、対価をいただく。自社農園を通じて、あるいは提携先の農園、農業主から米を買い、つりあわない品質と低価格を実現、お客に反映させる。ただし、店舗が国内のみという場合で、海外に店舗進出の視野が広がるのならば、今後の需要を見込んで独自ルートで入手可能な米は企業と共に流出するだろう。未開拓の市場で独占的なシェアを他よりも稼いでしまえるうまみは、それこそ価格の上昇が収束した後も、店舗数や取引量で賄える」

「何の話?」厨房で使う台布巾、鍋つかみのタオル、食器を拭く布巾を集め洗濯機で洗うため、ホールから国見が顔を見せた。

「恋愛ではなくって、お米の価値について、店長の見解に耳を傾けていたわけですよ」

「ふうん。焦るようなこと?」

「予期せぬところからとんできた声にはおどろきますよ、それはそれは」

 疑いの眼差しを向けるも国見は奥の通路、すんなり引き下がる。洗濯機が唸り、彼女はレジで金額を数える。

「ふう。あぶない、あぶない」額の汗を拭った小川は、こちらの視線を感じ取るが、不敵な笑み、有名な人物画のような微笑をたたえる。彼女はわざとらしく、思い出した体で洗浄器の掃除に取りかかった。