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蒸発米を諦めて4-4

 何故、親であるこの男が息子のクラスの内情に詳しいのかは、疑問が残る。男性が子供の学校教育に積極的に関与する姿はまれであるように思うし、彼の発言からも昼間に訪れた妻に内緒でここを訪れている以上、彼女に黙って息子の学校事情に関わることは困難に思うのだ。

 親同士のネットワークで得られた情報だろうか、と店長はおぼろげに判定を下した。

「あなたの置かれた状況は理解できますが、それを私に伝えて、どうしろと?」

「白米をどうか売り続けてくれないでしょうか」

「これまでのような販売はできかねます」

「高くても構いません」

「そうではなくて、私どももお客さんに提供する分のお米を確保していないのです。お売りしていたのは、価格上昇前のお米で、今後の発注は世間の価格と同等」

「そうでしたか」男はがっくり肩を落とし、首をたれる。力なく、顔が消えた。どうやら席に腰を下したらしい。「私はてっきり、関係者や家族が営む農家から独自のルートでお米を仕入れているとばかり思っていました。そういった話を聞いたものですから、私の所得とほとんど変わらない家庭、息子のクラスメイトの夕食は決まってお米を食べると……、はあ、そうですかぁ」

 彼の奥さんとは正反対の見解。彼女は子供の命を危惧していた。彼は、クラスでの立場、居場所に身を砕き、精神的な環境面に重要さを見出している。

「小学生に階級制、社会の姿をそのまま体現した形ですね」館山はレジを出て、男の背後から言う。

「私も最初に聞いたときは、驚きました。まるで勤め先と社会が合わさったような世間が子供の教室に広まっているとは夢に思いません。私の子供の時でも、ある程度の力関係や住み分けは体感してましたが、ここまで如実で明瞭な判断があるとは。息子は相当追いつめられていたでしょう」男は振り返った首を戻す。こちらを今度は、立ち上がり見つめた。「どこかお米を安く手に入れられるお店があれば、少しの可能性、噂で聞いた程度でも構いませんので、情報を私にください」ネットで交わされる親同士の情報は真相を確かめずに信じるのか。

「お米の取り扱いは行いません。店に単価の高いメニューは不釣合いですから」

「お米を食べられると、存在を認めてもらえるそうです」