コンテナガレージ

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静謐なダークホース 1-5

「なるほど。それで連絡先が書かれていなかった手紙に大豆拒否の意志が伝わらない、違うか、伝えられなかったので、倉庫の半分が大豆で埋まってしまったんですね」小川がしゃべると、ロッカーの扉が閉まった。

「テレビの取材もあれがきっかけだろうさ」館山の言葉が途切れて、再開。上着を替えたのだろう、と店主は推測。「取材攻勢の電話には正直うんざり」館山が言うように、テレビカメラに収められた行列の様子は瞬く間に反響を呼んでしまい、店へ多くの、見知らぬ、テレビに映る有名で話題なスポットを訪れるのと寸分たがわ勘違いのお客が押し寄せたのである。ただ、メディアに取り上げられる店が有する味や流行の、または真新しい料理とは異なる目的で、この店にお客は訪れる。僕を見に来るらしい。お客はそういった観点で店の選択をするものだとは、知っていたが、あまりの数の多さに操作されている、という状態がこれほどまで人々の日常に左右している事実は予測を、想定を軽々超えた。

 籠に食材を詰めて、倉庫を出る。更衣室から出てくる二人に出くわす。

「お疲れ様です」先頭の館山は首もとのマフラーを巻いていない。そういった最近の気温と晴れ間がのぞく時期である。

「おつかれさま」入れ違いに国見が更衣室に入った。店主は食材を所定の位置に並べる。

「言いにくいんですけどね、店長」バッグを肩に背負う小川はカウンター越しに話し出す。「取材を受けてみてもいいんじゃないですかね。ほら、だってお客さんが望んでいるんですよ。出版社が直接しかも、週に何度も取材を掛け合うのはそれだけ、注目の的とは思いません?」

「この一帯のビジネスマンや労働者が常連客。そのほかのお客に焦点を絞ったら、彼らがぼやけてしまう。写真には写ってる、しかし輪郭は曖昧。もともと極小を狙う料理を提供してきたんだ、それに大きく取り上げられたら、関心の薄いお客の感想までばら撒かれる。大多数に支持されるのは、バッシングも批判も同等に見込まなくては。僕はそういった方面を避けた。だからこそ、店が営業を続けられていると思う。調理人の顔は料理には含まれないよ」

「あんたが雑誌載りたいだけ」館山は小川の本心を見抜き、彼女の方を軽く叩いて、ドアに流れる。「おつかれさまです」

「……」小川と目が合う。「ミーハーな動機でいったんじゃありませんからね」明らかな動揺。絵に描いた慌てぶり。「館山さんの意見に僕は同意してはいないよ」

「あの、店長。バレンタインはどうしています?」

「もうすぐだね、そういえば」