コンテナガレージ

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抑え方と取られ方1-10

 一人前を炒めて、とうもろこしのパンに挟み、味を確かめているときに、開店前に三度目の来客が姿を見せた。

「どうも、ご無沙汰しております」四角い顔に頬のふくらみが特徴的な男性がにこやかに店に足を踏み入れる。微笑をたたえれば、入店は許可されたものと解釈している業者の男の考えが読み取れる。歳を重ねるにつれてずうずうしくなるのは、経験に裏打ちされた行動の決定なのだろう。しかし、その経験もかなりの頻度で修正が加えられている、つまりプラスに働き心理的に思い返しても傷を追わないような配慮が行き届いた経験。相手は受け入れる、謝った見方だ。僕は信用しない。相手に抱く心理も、変化の猶予をもたせている。なので、相手と距離を取りたがる。

「めずらしいですね」店主は、口に運びかけたパンを皿に置いた。厨房の二人、ホール係の国見は、洗い場のあたりで固まり、既に一人前の半分のパンを分け合って食べていた。

「相変わらず繁盛してますなあ、座っても?」一段上がったホールの席に男は太い首をわずかに揺らす。

「どうぞ」およそ業者とは思えない風貌、それに手に提げた革のバッグ。海外へ旅立つのなら、誰もが納得する。「誰かコーヒーを淹れてくれないかな?」三人に店主は言う。

「私が」ちょうど口にパンをほおばる国見、館山はグラスの水を含み、それぞれ声が出せない状態。手を挙げた小川だけがいち早く試作品を平らげた余裕から、返答する。小川へ頷きかけ、店主はテーブル席に座った。

「煙草を吸っても?」業者の男が言った。名前を思い出せない。名札もつけていなければ、この相手は自らの苗字を一人称で呼んだりはしないはず。

「どうぞ、私も吸いますので」テーブルの灰皿を店主が引き寄せる。白く四角い陶器。「どういった用向きでしょうか。あなたが来られたのは、開店当初ですね。覚えている限りでは」

「無駄に足を運ぶのは、より俊敏に動けるフットワークの軽い若手が主流です。私のような老いぼれが顔を出しても、あなたのような若い人は身構えて、商談どころではない」男は火をつけた煙草を吸い込む。