コンテナガレージ

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静謐なダークホース 4-3

 比済ちあみがもたらした情報は、午後のランチ明けまで持ち越される。

「今日も一人立っていましたね、外に」ピザ釜の灰を丁寧に取り除き、足元のバケツへ舞う灰を押さえる。マスクをはずした館山が言う。

「待ちぼうけの人を見張っている人はいる?」店主は、小川が洗う皿の水分をふき取る。店内のランチであったため、食器洗い担当の小川の仕事が、まだ完遂されないでいる。国見はいち早く休憩を取るため、レジの清算を済ませていた。休憩の催促は、彼女自らが申し出た。引き止める理由もないので、店主はあっさり了承している。

「向いのビルに人は立っていますけど、待ち合わせか、雪よけのためですね」館山はバケツの蓋を閉めると、言葉を選び、店主に尋ねた。「店長、あのチョコはもう処分されましたか?」

「どうして?」

「いえ、その、なんとなく店に置いていたら、危険かなと思いまして」

「力づくで奪い取る、君の知り合いが暴挙に出てまで、チョコを欲しがるのなら、深夜に侵入して、もう冷蔵庫から消えているだろう」

「では、まだ中に?」

「僕は手をつけていない」

「確認をしても?」

「食べたいの?」

「とんでもない、こんな危ないもの。誰が作ったか、わからないものを食べるなんて、わたしにはできません」

「僕らの料理をお客さんが食べているのも、同じようなことだと、僕は思うけどね」

「ここはお店ですよ」

「誰が作ったのか、という疑りは、おいしさや信頼、実績など、思い込みが大半を占めて口に運ぶ。勇気だよ。おにぎりを食べられない人がいるね、潔癖といわれる人の代表的な事例だ。彼らは、おそらく握った姿を想像してしまえるのだろう、フォーカスがそこに合ってしまう。疑惑は想像を掻き立て、手に付着する菌にまで及び、それがまた自らの口に運ばれ、噛み砕き、体内に入る。身の毛もよだつのだろう。しかし、目の前で握られる寿司であったり、この店のような調理姿が見える場所であったら、彼らの反応は異なり、すんなりと受け入れると思うんだ」

「身近な人が作ることで、その姿が想像できてしまうと?」

「そもそも知らない人が作っている、しかもランチの場合だけど、店には行列ができている、おいしいのだろう、あるいは人気があるのだろう、そういった先入観が埋め込まれ、作り手と食材の接触は薄れる。家庭的な現実味と形の不ぞろいが、もしかすると拒否を引き出しているのかもしれないね。店やスーパーで売られる商品はそれなりの形成を心がけている」