コンテナガレージ

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静謐なダークホース 4-1

「昨日の件の説明を私、まだしてもらっていないんですけど?」開店前の厨房。小川が仕込みを縫って、先ほどから問い掛けている。鳥のようにくちばしでつつき、痛みはあまり感じないが、集中は途切れる。

「だから何度も言ってる、ここで話せないって!」眉を吊り上げる館山は、小川のわがままに付き合う。店主は我冠せず、一人黙々、意気揚々とランチの仕込みに余念がない。

 今日はハンバーグ。屋外の状況を見計らい、店内のランチに決めた。テイクアウトと店内の飲食、どちらも屋外の待機が伴ってしまう。ならば大部分の寒さを凌ぎ、食事を運び、食欲を満たす店内でのランチを店主は選んだ。

 ハンバーガーも昨夜の時点では候補に挙がっていたが、店用のバンズを頼むブーランルージュが、小麦の高騰を理由に特殊な形状のパンの製造を一旦中止にしたいとの申し出があったのだ。そのため、しばらくハンバーガーの販売を中止せざるを得ない状況にある。

 小麦は数種類の配合を施しているとのことで、その一種類が手に入りづらい状況であるらしい、とブーランルージュの店主がこぼしていた。作れるが、以前の味と風味、硬さではないため、販売はできないとの回答。

 そこで店主は、店で扱う小麦でバンズ作りを当然に試作してみた。しかし、醗酵が上手く働かず、温度管理の調節にかなりの時間を割かれ、定期的な時間に生地のガスを抜かねばならない作業は、ランチに提供するためには、前日の店を閉めて帰る数時間後に翌日の作業に取り掛かる必要が求められる。それゆえ、対価を得るには、外注が適当なのだと知れた。また、釜では長時間の満遍なく弱火を維持する火加減は不可能に近く、オーブンで焼けるには焼けるのだが、一度に焼ける量が限られており、いくら早起きしても、いくら寝ずに次々焼いたとしても、販売までには到底間に合わず、しかも早めに焼き始めると最初に焼いたバンズは硬くなってしまう。そういった数々の問題点から、ハンバーグに本日のランチを切り替えたのである。 

 二人は何を言い争っているのか、店主は独り言を口に出さずに脳内でぺちゃくちゃしゃべり、調理台の背後で繰り広げられる会話劇は無声映画のごとく、あるいは消音のままの映像であった。

「店長には話せて、私にはだんまりって、店の中ではご法度ですよ。わかってますか、信頼を、私のことを信じていないって、とられても先輩は反論できない立場ですよ」

「話せないのには理由があって、だから店長も黙ってる」館山は大きくため息。「休憩時間が重なった時に教えるよ、しかたないな。店長、いいですかね、それで?」

「僕は隠したつもりはないよ」

「ほらあ、やっぱり先輩の嫌がらせですぅ」

「あんた、店長に聞かなかったでしょうが」

「そういえば、ううんと、言われてみると、はい、聞いてません」小川が小声で言う。「だって、聞きづらいですもん」

「聞こえてるよ」店主が言う。