コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

再現と熟成1-6

 「いいえ、ただ馴染んでいないと、思ったのです。お代はいくらですか?」二人の店員を順に見やって会計を催促した。男がギターをケースに、女がレジを打って金額の請求、私は額面きっかりのお金を手渡し、水色のトレーは指を加えて待っていた。

 立ち去ろうとして申込用紙の提出を思い出しポケットから四つ折りにたたまれた用紙を短髪に差し出す。本当にいいのかと無言で同意を求める眼差しで相手はこちらの顔を覗く。当たり前ではないかと、堂々瞬きをこらえてと言うよりかは、つまりもっと内生的に先々のビジョンを想像して送り出したら、相手は大きくゆっくりと自然に瞼がまたたいて折り返して開き、頷いた。隣の女性にも軽く会釈をして店を出た。私らしくないサービスだ。いつもなら、嫌って吐き捨てて唾を投げかけていた仕草なのに。けれど、まんざらでもない。たまにいいだろう。相手だって私ではないのだ、マイナスに作用しないことを願う。

 エスカレーターに乗りスムーズに降下。上階への交差の一基にはセールのポスターが張ってある。宣伝をしないことで得られるお客がいるという事実を少しでも考えて欲しいものだ。どこに何が売っていてどれぐらいの価格でいつから売り出されるのか、在庫はあとどれぐらいか、そのような考えを対象とするならば話は別であるが。

 あの男も女性店員も短髪の店員も私だって、そこの広告も全部、隠していた裏側に威力がみえた。

 流れる階段を降りて、視界に入るむき出しの配管にぶら下がるまんまるの月。

 月だって、そう、見せない裏側のおかけで愛でていられるんだ。