コンテナガレージ

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再現と熟成2-2

 食後、自室に戻ってベッドに横たわる。

 携帯電話の感触がポケットに。財布も。男みたいだと言われる。言われ過ぎでもしかして私は本来は男なのではと勘ぐったりもしたが、そういった同性に興味を抱くことはない。そもそも持ち物が少ないのだ。入れるバッグを携帯しないのは当然の行動だろうが、あいつらには理解できないらしい。何も考えずに流されているからだ。差し迫った必要性を向き合ってはいないから、仕方ないし、こうして私が案じる意味もまったといっていいほどない。

 カーテンを半分開けて室内を薄暗くする。外が見てきた。家の裏側は、未開の土地で雑草が生え放題。たまにアランを離して駆けまわる運動場の役割も担っている場所で、二百メートル先には崖。その下は、線路が走っている。

 無傷で使用されない携帯が充電スタンドに収まる。

 人はつながりを求める。今度、いつ会えるとも知らずに平気で約束を交わす。私は会うか会わないか。極端。曖昧にすると顔がひん曲がっていくのをあれだけ外見を気にしているのに見えないんだろう、と思う。表面の綺麗さではなくて、言葉と言葉、動作と動作の合間に生じる刹那の悪魔。醜いそれを隠すから、歪むんだろう。おそらくはそうだ。窓に映る私の顔を眺めてみる。照明をつけて私が登場した。ギターを弾き始めた影響からか首が左に傾いていた。力を込めて修正、正しい角度を視認。

 楽器店での女性店員の言葉。あれほど強烈な一撃を受ければもうギターをあの男は握ることもない。それぐらい急所を突いていたと思う。大人しさは攻撃性をカモフラージュするためかもしれない。大体の人がそうだろう。表を隠して裏をしまうか、あえて裏を出すことで表が本性だろうと錯覚させる。私はどちらか。まあ、どっちでも私なのだから、かまうことなない。

 天井を見つめてベッドに仰向け。右手の感度をたしかめる。痛みもこわばりもない。左手と比べてみると多少肘関節近くが張っていた。ピアニストは指を痛めないのか、疑問が湧く。テレビで知ったのか、一日休むと感覚を取り戻すのに三日かかるという。最近ようやく、腕と歌を別の機関として個別に頭が捉えだした。前は、声に集中すると指先が疎かになったが、現在は弾きながら声が出せる。

 選ばれたと捉えて良いのだろうか。シーリングライトで天井の圧迫感は極限まで解消された、前任者の焼け跡、天井のシミはすっかり新しい貝殻で覆い隠れてる。近所迷惑にはならないだろうけど、この時刻からギターを弾くのははばかられた。この先も弾くために衝動を押し殺す。圧迫の動機は想像で解消するしかない。

 午後十時。いつ電池を変えたのかを忘れてしまった掛け時計を、首を起こして見た。