コンテナガレージ

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ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって9-2

 選択肢はあまるほどに、手に持ちきれないほど、こぼれんばかりに、否、残されたものたちは私の無意識の選択によって予備予選なるものを通過してるんだ。仕方ない、無意識の仕業、これまでの私を形作る、いわば戦友だ。無下に扱っては罰が当る。そうだろうか?問い返す、男はベッドに寝転んだ。禁煙室を選んだが、かすかな煙草の残り香が鼻をつく。安さが売りの人気のホテル。

 これまでの私をしかし、捨て去るべきが肝要だろうな。要、肝、似た言葉を並べた造り言葉。こうして言葉を強める。誰かが言い始めたんだろうな、私は薄ぼんやり、目を半眼に、天井のクロス、植物の模様、蔓を目で追い、左手でなぞった。そうだ、使い始めは世の中で自分のみが新しさを感じ取っていた。つまりは、そう、私が追い求めるこれから、というものは、未開拓の荒れ果てた荒涼とけぶる無機質な大地、そこへ信念持って歩き出す。

 おぼろげながら見えてきたわずかばかりの足元を照らす視界だ。

 迷路のように入り組んだ植物の蔓、一筆書きを思わせる枝葉と茎の結合部、葉脈は独立、だが蕾や花びらは姿を隠す。

 かつての私ばかりを見ていた、夢に、現実に、足元に、足跡に、住まいに、関わりあった人に、所有物に、匂いに。

 どこにも先を指し示してはくれない。

 だから、箱に閉じ込めた。半透明なアクリルガラスの中へ。

 目に見えない場所に押し込める。取り出さない、思い切って存在自体を忘れてみるのも名案だ。これまでは、頼ってた、ということが証明され、私によって看破されたのさ。

 左手首を額にあてがう。血が降下し、冷たくなった腕。どくどく、血流がリズムを刻む。導管を流れる木を思わせた。

 電話が鳴った。波を打つ心臓、定量的な打音が感じ取れる、高まり。

 起き上がる、一つ息を吐いた。ベッドサイドに立つ。受話器を取った、ディスプレイのないシンプルな電話機。数字が白く、丸いボタンの余白は黒が埋め尽くす。浮き出た格好、影と光。吸収と反射。男は、喉のつまりを心配しつつも、咳払いは控えて、しゃがれた声をむしろ望んだ。こちらの心情を隠す行動、動機である。