コンテナガレージ

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お手を拝借、今日はどちらに赴きましょうか?1-3

「はぁ、面白い方、ですね」苦笑いの樽前は、場を改めるアイテムに、持参した袋を店主へ差し出した。僕はカウンターに座るように勧める、仕込みの時間は惜しいが、彼は気になるフレーズを口にした、危険因子は見つけ次第対策を講じる必要がある、野放しではいけない、いずれ牙をむくなら、取り掛かった作業を後回しにする方が、後々に響くのだ。

 樽前は恐縮しきって、こちらの着席まで腰を下ろすのを躊躇った、僕が高圧的に映ったのだろうか。ホールの窓、風に舞うゴミ袋が横切った、春にもみられた横殴りの風である。気温差によって風が作られたのだろう。春の一番のような呼ばれ方がないのは、憂鬱な寒さが身に染みるできれば迎えたくはない厳しい冬の到来を告げているのが理由だろう、店主は休憩中にもめったに吸わない煙草を胸ポケットから取り出した。

 樽間の隣について、相手の許可を取り忘れた、と気がつく。火をつけて、許可を求めた。頭ではドーナッツがぐるぐる、思考能力の大半を奪っていた。甘いもの、素材の甘さ、砂糖、黒糖、てんさい糖、メープルシロップ、サツマイモ、蜂蜜、テイクアウト、デザート、持ち運び、少量、男性受け、女性限定、料金は別に会計、望むお客のみ、メニューは味の濃いもの、対照的に薄味が抜群か、試作が必要……。

「お構いなく。僕は吸いませんけど、タバコの煙には慣れましたから。お客さんの多くは煙とコーヒーの組み合わせを好みますので」

「すいません。一本で終わらせます」店主は煙を吐いた。「それで?その包みと、そちらの店を空けて私の店を訪れた訳と、移転の意味を教えてください」

「教師みたいに話すんですね」樽前は合わせた目を、とっさに離す。「失礼なことを、すいません。初対面なのに」

「顔見知りにはずけずけとものを言っていい、というようにも聞こえます」

「店長!」厨房から小川が嗜めた。眉が釣りあがる。彼女は樽前をどうやら男性として認識しているらしい。それか、たんに異性に対する身構えたよりよく見られたい反射的な応答かもしれない。顔で選ぶのではないのだろう、その人物の雰囲気、かもし出す色気、所作振る舞いに言葉遣い等々が女性が対象者に据える要因。あくまでも、憶測だ。僕には無関係である。

「あの、これうちのコーヒーです。浅煎りと深煎りの二種類、全部で四つ。皆さんはコーヒーを飲まれる方だといいのですが」