コンテナガレージ

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今日からよろしくどうぞ、不束者ですが4-3

 種田のドライブは鈴木の恐怖心を煽ることなく、無事に目的地のブルー・ウィステリアの日本一号店に誘導した。

 明治初期の金融機関がかつての所有者である建物は、敷地一杯、キューブ型の西洋式近代建築そのものであった。外壁の手前に歩道と区切る低木がいかにも近代の様式美をかもし出す。看板が一角に置かれ、その歴史を書き記す。運転席側なので、種田からはうまく見えない。

 入り口を通り過ぎて、裏手に続く小径を曲がる。おそらく駐車場は裏に数台止めるスペースが確保してあるはずだ、都市部の裏手、特に銀行や商家などの土地は売られずに建物と共に所有することが多い。O市の同時代の近代建築も裏手の駐車場が健在だった。おぼろげな、どうでもいいことまでよく覚えている、と種田は自らに関心と嘲笑の拍手を送った。 

 四隅の柱に縦じま、隣り合う線との境目のくぼみ、ラウンドとでも表現するのだろうか、装飾に凝った造りは見上げ、立ち止まる、数メートルの距離でも視認が可能であった。駐車場に車を乗り入れた種田たちは、警備員と見間違える制服警官に事情をきく。彼は、店が面する南北の通りに並ぶお客の列を監視していた。

「店舗の中へどうぞ。おーい」もう一名を入り口付近に立つ警官を呼び寄せた、登場する軽快な足取りの警官が案内役を勤めた。こっちの男性も警備員の制服にみえた。

 Tシャツ姿の責任者が奥の控え室に待ち構える。建物に店のコンセプトを擦り寄せた室内の家具と映る、種田たちはアンティーク調の刺繍が施された花柄の背もたれ、そのソファに腰を下ろした。名刺の交換は行われなかった、不必要な自己紹介と、相手が判断したらしい、彼女にとっては好感が持てる仕草。